オランウータンの群れ飼育を考える

  • 対象種:スマトラオランウータン(pongo abelii)・ボルネオオランウータン(pongo pygmaeus
  • 場所:動物園、ヨーロッパ
  • 手法:糞中コルチゾル・アンドロゲンの比較
  • 目的:群れサイズや年齢などのファクターと各ホルモンの関連を調べる

 野生では、単独性の傾向が強いといわれているオランウータン。母親とコドモ以外は、一緒にいることが少ないと言われています。一方、飼育下ではオランウータンは、群れ飼育されている場合も多く、さまざまな社会行動が見られます。社会的受容能力の高い動物にとって、社会的な刺激は単調になりがちな飼育環境において、有効なエンリッチメントとなるとされます。しかし、野生環境とは違う飼育下の社会環境がオランウータンにどのような影響を与えているのか、研究はほとんどありません。

さて、今回ご紹介する論文は、飼育下オランウータンにおける群れサイズの違いが糞中コルチゾル濃度にどう影響を与えるかを調べたものです。コルチゾルは、ストレスにより増えるといわれているホルモンで、値が高いほどストレスを受けていると考えられます。Weingrill氏らは、29のヨーロッパの動物園で生活する、スマトラオランウータン45個体とボルネオオランウータン66個体から糞サンプルを集め、群れサイズとコルチゾル濃度の関係を分析しました。すると、興味深いことに、ボルネオオランウータンでは群れサイズが大きくなると糞中コルチゾル濃度が高くなりましたが、スマトラオランウータンでは変わりませんでした。さらに、オスに関しては性ホルモンの1つであるアンドロゲンの変動についても検討しており、種差・年齢差について報告しています。

野生環境ではスマトラオランウータンの方がボルネオオランウータンよりも、社会行動がよく観察されるといいます。もしかするとそうした種差が今回の結果に影響を与えていたのかもしれません。ただ、今回の研究では単独飼育されているオランウータンが1個体ずつしかおらず、また、ストレスだけでなく身体的な活動量などの影響ははっきりしません。今後は、さらに多くの動物園で行動と合わせて影響を調べる必要がありそうです。

Weingrill, T., Willems, E. P., Zimmermann, N., Steinmetz, H., & Heistermann, M. (2011). Species-specific patterns in fecal glucocorticoid and androgen levels in zoo-living orangutans (Pongo spp.). General and Comparative Endocrinology, 172(3).

(やまなし)

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