行動観察に関するオススメ本の紹介

環境エンリッチメントの効果を評価するために、もっともよく用いられる手法が行動観察です。エンリッチメントの前後で、行動を定量的に比較し、客観的な評価をおこなうことは適切なエンリッチメントをおこなうことためには重要です。行動観察は手軽に誰でもできますが、実際に行動をデータ化する過程には、いくつかのコツが必要となります。今回は、そうした行動観察をおこなうにあたって役に立ちそうな、オススメ本を紹介します。

これまで動物の行動研究をおこなったことがある方は、テキストとして、こちらの訳書を使ってきた方が多いのではないかと思われます。行動観察を始める前の準備から、行動の記録方法、分析・結果の解釈まで、幅広い内容がわかりやすく説明されているのが特徴ですが、日本語版は1990年に出版されているので、内容的には古い部分もあります。そのうえ、実は日本語版は絶版となっており、中古でしか手に入らない状態です。オリジナルの英語版は改定が加えられており、Cambridge University Pressより第三版が2007年に出版されています。Measuring Behaviour: An Introductory Guide third edition (Martin and Bateson, 2007)

 

こちらは、日本で応用動物行動学を専門とする研究者が中心となり2011年に出版されたものです。多くの部分が、それぞれの動物種ごとの行動の詳細な記述に割り当てられています。ウシ・ウマ・ブタ・ヤギ・ヒツジ・ニワトリ・イヌ・ネコ・クマ・チンパンジーの飼育下での行動の説明・写真が、行動が発現する状況によって分類されています。飼育動物に特有の異常行動などについても記載されています。飼育動物の行動観察をするうえでは、それだけでも役に立つのですが、こちらは最初の10ページほどに、行動観察法や分析法についてもまとめられています。行動研究に必要なエッセンスが凝縮されており、データ収集のための道具や統計的な手法についても比較的幅広く紹介されています。しかし簡潔にまとめられているものなので、初めて行動観察を学ぶにあたっては、その他の文献を補完的に参照する必要が出てくるかもしれません。

 

2013年に霊長類学と哺乳類の社会生態学の専門家によって出版された、もっとも新しい行動観察のテキストがこちらです。野生動物の行動の記録法はもちろんのこと、研究のテーマ設定から、個体識別の仕方なども丁寧に記述されているので、初心者にも読みやすい内容となっています。また、この本の特徴として、研究の実例が図表とともに、後半にたっぷりと載せられているので、自分の知りたいことを調査するうえで、どのような方法論が可能なのか参考になります。使われている事例は、あくまで野外フィールドでの野生動物(主にサルとシカ)の観察が中心となっていますが、飼育下における研究にも応用可能なものもあります。たとえば、活動時間配分の変化や、社会関係の評価は飼育下の研究でもたびたび使われています。

 

行動観察は、動物行動学や生態学、心理学など、幅広い分野で用いられています。しかしこれほど広く用いられている方法ながら、実は動物の行動観察の方法論に関する日本語の本は少ないのが実情です。

行動観察の具体的なノウハウについて、これまでSHAPEでは行動観察のワークショップをおこなっています。また、個別のケースに沿ったさまざまな動物種についての行動観察の相談も受け付けています。興味のある方はお声かけください!

(山梨 裕美)

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