簡単!安価な!エンリッチメント:宮崎市フェニックス自然動物園類人猿舎の取り組み①

  • 採食エンリッチメント、認知エンリッチメント
  • 種名:チンパンジー(Pan troglodytes)・オランウータン(Pongo pygmaeus)
  • 場所:宮崎市フェニックス自然動物園
  • 目的:採食時間を延長する、類人猿の認知能力が発揮できる機会を増やす

 

エンリッチメントをおこなううえで、最大のコストともなるのが、手間とお金…。設置の際のコストだけでなく、日々のメンテナンスにかかるコストを減らすことで、長期的な継続が可能となります。

宮崎市フェニックス自然動物公園の類人猿舎では、手間がかからず、かつ安価でできるさまざまなエンリッチメントをおこなっています。そのうちのいくつかを今回から3回に分けて紹介したいと思います!

第一回は、電気資材のプールボックスを用いた採食エンリッチメント、その名も打ち出の小箱&つつき箱 をお送りします。

①打ち出の小箱

電気資材のプールボックスを用いたものです。プールボックスにU字ボルトを取り付け、底に1㎝の穴をあけます。

U字ボルトにシャックルを取り付け、ケージ内の消防ホースなど、さまざまなところに設置可能です。

中にはSPS(ペレット)、レーズンなどの乾いた食べ物を入れます。

四隅にあるねじを回し、蓋をとって食べ物を補充します。

チンパンジーは振ったり、穴をつついたりしながら、中身を出します。使い終わるまでに約30分ほどかかります。

少し難しくして、中に穴をあけたタッパーを入れるバージョンもあります。

 

材料費は1つ約1500円程度です。

力の強いチンパンジーでも簡単に壊されないような、丈夫な素材なので、2~3年はもちます。

 

②つつき箱

打ち出の小箱の進化型です。

プールボックスの底の穴の上に、ポリエチレン製のふたを取り付けます。さらに、その上にL字型のおもりをのせます。

打ち出の小箱よりも取りづらくなり、少量の食べ物でも採食時間をさらに延ばすことができます。

チンパンジーは穴に枝をつきさしながら振って中の食べ物を取り出します。

穴に合わせて枝を加工したりする、道具を加工する行動も観察できます。

使い終わるまで1-2時間ほどかかります。

 

すべての個体がこのフィーダーを使えます。最年少のユズ(3歳)も難なくこなせるようになりました。

 

環境エンリッチメントは継続することが大切です。

しかし、動物がフィーダーを繰り返し利用して熟達することで、採食時間が徐々に短くなってしまうという難点があります。

外側は同じプールボックスでも、中身をいろいろ工夫して難易度を調整することができるので、個体の熟達度にあわせた応用ができます。

たとえば、L字のおもりのかわりに、空き缶に食べ物を入れたものや、新聞紙に包んだ食べ物などを入れてみたりなど…

ちなみに、チンパンジーよりもさらに力の強いオランウータンには、鉄製のプールボックス(600-700円程)を使用します。

簡単すぎず、難しすぎず…採食時間が効率よくのびるように動物の個性や能力、習熟度など、さまざまな要素を考慮して、工夫をしています。

 

(郡 健一郎・山梨 裕美)

郡 健一郎:宮崎市フェニックス自然動物園でチンパンジーなどの飼育に携わる。設置や維持のコストが少なく、多くの動物が使用可能なエンリッチメントの開発に熱意を注ぐ。フェニックス動物園の動物園だよりなどでも、エンリッチメントの内容を紹介している。http://www.miyazaki-city-zoo.jp/list/index.html

宮崎市フェニックス自然動物園HP:http://www.miyazaki-city-zoo.jp/

 

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