ホッキョクグマの常同行動とストレスレベルに影響を及ぼす要因は?

  • 種名:ホッキョクグマ
  • 場所:アメリカの動物飼育施設20か所
  • 目的:常同行動やストレスレベルに影響を与える環境・個体要因をあきらかにする

常同行動は多くの飼育動物にみられますが、中でもクマ類は飼育下でもっとも常同行動をひきおこしやすい動物種だといわれています。しかし、何が常同行動のリスク要因となるのかははっきり分かっていません。また、これまで常同行動とストレスの関連は指摘されてきたものの、実はその証拠は必ずしも一貫したものではありませんでした。

今回ご紹介する研究では、飼育ホッキョクグマを大規模に調査することで、常同行動やストレスレベルに影響を及ぼす個体・環境要因を検討しました。

調査はアメリカの動物飼育施設で生活するホッキョクグマを対象におこなわれました。1年間にわたり、20施設で生活する55個体の行動データと糞を収集しました。行動は2週間ごとに1日ビデオで撮影され、糞は行動撮影の2日後に採取されました。常同行動の頻度を分析し、ストレスの指標として糞中のコルチコステロン(一般的に増加するとストレスレベルが上昇したと捉えられる)を測定しました。また、環境エンリッチメントの多様性(エンリッチメントをカテゴリーに分けて生態学で用いられる多様性指標を元に算出したもの)や施設の環境変数を記録し、さらに動物にとって新奇な物体を見せることでその反応性(新しいものに近づくときにどれくらい時間がかかるか、またどれくらいの時間興味を示すかということ)をテストしました。

結果、55個体のうち47個体が程度の差はあるものの、常同行動をおこなっていました。(時間にすると一日のうち0~42%という個体差がありました。)常同行動は、多様な環境エンリッチメントをおこなっている環境で少なく、仲間と暮らしている個体に少なく、展示から見えない場所にいることが多い個体に少ないことがあきらかになりました。また、新奇物に近づくのが遅い怖がりな個体は常同行動をおこなっている傾向にあるようでした。また、糞中コルチコステロンと常同行動の間にも相関がみられ、常同行動の頻度が高い個体は糞中コルチコステロン濃度も高かったようです。さらに、糞中コルチコステロン濃度は陸上の面積が狭いところで生活している個体に高い傾向がありました。

今回の結果から、さまざまな環境エンリッチメントや社会生活などで常同行動が減少する可能性や、ストレスとの関連などが示唆されました。ただし、一般的に野生のホッキョクグマは単独で生活する時間が長いことや、相性などの問題もあるのですべての個体が、常に同種他個体と暮らすべきであると単純につなげてしまうことは早計かもしれません。また展示から見えない場所にいることが多い個体というのが、どういう意味をもつのかははっきりわからないと著者たちは述べています。見えなくなるということで単純に隠れられるものがあることがよいのかもしれないし、嗅いや音など動物のさまざまな感覚世界と関連しているのかもしれません。今後、今回の調査であきらかとなったいくつかのリスク要因を実際に飼育環境で変化させるなどして検討していくことが必要です。

(山梨 裕美)

Shepherdson, D., Lewis, K. D., Carlstead, K., Bauman, J., & Perrin, N. (2013). Individual and environmental factors associated with stereotypic behavior and fecal glucocorticoid metabolite levels in zoo housed polar bears. Applied Animal Behaviour Science, 147(3–4), 268-277. doi: http://dx.doi.org/10.1016/j.applanim.2013.01.001

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