爬虫類と両生類のエンリッチメントと認知能力

  • 種名:爬虫類・両生類全般
  • 目的:爬虫類・両生類の環境エンリッチメントの研究例を概説する。

 

環境エンリッチメントは飼育される動物すべてにおこなわれるものです。ただ、これまでは認知的・感情的なニーズの高い動物種に優先しておこなわれる傾向にありました。そのため、これまでそうしたニーズについて知られていなかった爬虫類や両生類は、哺乳類に比べて環境エンリッチメントの研究が多くはありませんでした。しかし、爬虫類や両生類においても、学習能力や、複雑な社会行動やコミュニケーション、さらに低頻度ではあるものの遊びのような行動が観察されるなど、哺乳類や鳥類のもつ基礎的な、または類似した認知能力が備わっていると考えられるようになりました。そのため、爬虫類・両生類においても、環境エンリッチメントの必要性が認識され、事例が増えてきました。2013年に出た総説をもとに、そのいくつかを紹介します。

■両生類のエンリッチメント

両生類の環境エンリッチメントに関する文献は非常にすくないです。というのも、両生類の繁殖や維持にとって必要なのは、特定の温度や湿度や構造の設定である場合が多いからというのが理由のひとつです。しかし、もっとも飼育されることが多いアフリカツメガエルにおいてはいくつか研究例があります。たとえば、カエルを集団で飼育する際に、タンクにパイプを加えると、カエルが隠れるために利用することが観察され、噛み傷を負う頻度が大きく下がったことが報告されています(Torreilles and Green, 2007)。他にも、カニバリズムを予防するために、サイズごとの群れ構成をおこなうべきであるとの提言もあるそうです。

■爬虫類のエンリッチメント

両生類に比べると、爬虫類での研究例は比較的多く、それには隠れ家を与える、温度環境に変化をもたらす、さまざまな食べ物を与えたり、与え方を変えるといったものが含まれます。

・カメTherrien et al. (2007)では、4種類のエンリッチメントアイテムをウミガメの水槽に加えてその行動への影響を検討しました。好奇心を満たして触覚的な刺激を与えるために塩ビパイプを組み合わせた物体とプラスチックボトルを導入し、採食行動を促すためにプラスチックボトルや塩ビパイプに裂け目を入れて食べ物(魚・イカ・レタスなど)を加えたものを導入しました。さらに、水が出てくる落水場を水面より上に設けました。目の見えない個体にはパイプの構造を工夫したり、飼育担当者が水をかけるなど、個体ごとに配慮しました。すると、休息が減少するとともに、常同的だった遊泳パターンが、より複雑な遊泳パターンに変化しました。カメのエンリッチメントに関するその他の研究例はSHAPE-Japanの他のページもご覧ください。(➡1)(➡2)

・トカゲPhillips et al. (2011)では、アオジタトカゲの採食エンリッチメントと物理エンリッチメントの行動と体重への影響を検討しました。採食エンリッチメントに関しては、ミルワームをケージ内にまいた条件と、4mmほどの穴のあいたボールにミルワームを隠した条件と、生餌がなにもない条件で比較しました。すると、ミルワームをケージ内にまいた際に、体重や食欲が増加し、探索行動が増加するといった結果が得られました。物理エンリッチメントに関しては、サイズ(大・小)と温度(高温・低温)を組み合わせた4条件で比較しました。すると、大きなケージでは歩く行動と、シェルターに隠れる行動も増加しました。著者らは生餌を与えることと、大きなケージを提供することを提言しています。

・ヘビAlmni and Burghardt(2007)では、複雑な環境(穴が掘れる地面・登れる枝・生きたマウス)と、標準的な環境(堅い地面・登るものがない・生餌なし)で育ったヘビ(rat snake)を比較しました。8か月後に行動と認知能力を比較すると、複雑な環境で育ったヘビは獲物をより早く捕獲・採食し、探索課題(12個の穴のうち1つだけある抜け道を探す課題)をより早く学習しました。

 

その他の爬虫類、ワニやミミズトカゲなどの動物種に関する研究がないのが現状です。しかし、上記のように環境の変化がかれらの行動や認知能力に短期的・長期的に影響を与えることを考えると、より多くの爬虫類・両生類において環境エンリッチメントの研究をおこなうべきだと考えられます。今後、環境エンリッチメントを通して、哺乳類とはまったく異なるニーズを持つ、かれらの内的世界をあきらかにするような研究が増えることを期待します。

(山梨裕美)

(注)今回の記事は下記の総説を元に作成したものです。紹介したのはごく一部であり残念ながら、多くの詳細を省いてあります。著者は爬虫類の認知能力や、動物の遊びなどに関する研究を長年おこなってきた研究者で、環境エンリッチメントや動物の遊び、認知能力に関してユニークな洞察をもっている方です。いつか別の機会に紹介できればと思っています。

Burghardt, G.M., 2013. Environmental enrichment and cognitive complexity in reptiles and amphibians: Concepts, review, and implications for captive populations. Applied Animal Behaviour Science 147, 286-298

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