トラとピューマにおけるバンジー採食エンリッチメント

  • 種名:ベンガルトラ(Panthera tigris tigris)・ピューマ(Felis concolor
  • 場所:ナイアビ動物園(アメリカ合衆国)
  • 種類:採食エンリッチメント
  • 目的:常同行動を減らし、行動を野生に近づける

環境エンリッチメントは飼育動物のストレスを和らげるとともに、自然な行動を促すために使われています。今回は、ネコ科動物を対象に、草食動物の死骸を与えて行動とホルモンの両面から効果を評価した事例を紹介します。
研究の対象としたのは、ナイアビ動物園で飼育されているベンガルトラ2頭とピューマ2頭です。エンリッチメントとして用いたのは、「ロードキル」されたシカの屍体の臀部を、獣医師が検査して皮をはいだ物でした。バンジー状のロープ(実際に使用された市販の物はこちら)を骨にドリルで空けた穴に固定して放飼場の天井から吊し、動物に2時間30分にわたって与えました。エンリッチメントは1ヶ月の間を空けて2度おこないました。エンリッチメントの前後で行動を記録し、エンリッチメントが行動に与える影響を調べました。また、糞サンプルを採集し、コルチゾル濃度からストレスを評価しました。
その結果、エンリッチメントの前後で糞中コルチゾル濃度の変化はトラとピューマどちらも見られませんでした。また、トラにおいてエンリッチメント後には地面に寝そべっている時間が増えました。ピューマではエンリッチメントにより常同歩行が減り、通常の歩行が増えました。
バンジーロープを使って餌を与えるエンリッチメントは、糞中コルチゾル濃度を上昇させることなく、動物の行動に影響しました。特にピューマにおいては常同歩行を減らし、行動をより自然なものにする効果が見られました。ネコ科動物にとって効果的かつ安価なエンリッチメントを示したが、より詳細な効果を調べるためには例数を増やした研究が欠かせないと、筆者たちは述べています。
(小倉匡俊)
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