レッサーパンダの日替わりジャングルジム

  • 種名:シセンレッサーパンダ Ailurus fulgens styani
  • 場所:大牟田市動物園
  • 目的:利用可能な空間の拡充。探索行動などの発現。

 野生下でのレッサーパンダのテリトリー面積は、メスで1.0-2.02 ㎢、オスで1.11-9.6  ㎢とされています(A.R.Glatston,2010)。

 しかし、飼育下で利用できる面積は限られており、特に国内のレッサーパンダの飼育展示場面積は欧米の施設と比較しても圧倒的に狭く(Tanaka & Ogura, 投稿準備中)、大牟田市動物園の飼育展示場面積も約85 ㎡と決して広い施設とはいえません。さらに、冷涼な環境に生息するレッサーパンダにとって日本の夏の暑さは厳しく、夏季は冷房の効いた屋内展示室に行動範囲が限られている場合があります。野生のレッサーパンダは、エネルギー消費を抑えるために1日の大半を休息に充てている(A.R.Glatston,2010)とはいえ、飼育下の限られたスペースでは刺激が不足しがちです。

 この写真は、以前の当園の屋内展示室の様子です。上部の空間が利用できないため、狭い面積を有効に活用できておらず、空間利用パターンも単調となりがちでした。また、野生下では多くの時間を樹上で過ごしているにもかかわらず、自然な行動レパートリーである木に登るという行動が発現できませんでした。

 そこで、キリンの餌として切った枝の太いものを再利用して立体構造物を設置し、利用可能な空間を増やしました。また、その構造物上の複数カ所に餌を配置する給餌方法へ変更し、探索する機会を与えました。さらに、キリンが食べ終わった細い枝を粉砕機でウッドチップにして床に敷きました。このようにすることで、木登り、樹上での歩行、木から木へ飛び移る、床面の匂いを嗅ぐ等の探査行動が発現するようになりました。

 しかし、新奇物を設置しても、しばらくすると慣れが生じます。そこで、構造物の一部の枝を固定せずに組み換え可能(ボルトで固定せずに枝分かれ部分に置いたり、隙間に差し込んだりして安定させる)にして、部分的な組み換えを行うことで単調になりがちな飼育環境に変化を与えています。

現在、この部分的な構造物の組み換えがレッサーパンダの探索行動や採食行動へ及ぼす影響を調査しています。

(河野成史:大牟田市動物園)

大牟田市動物園のレッサーパンダやキリンなどの飼育担当者。

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