ICEE2019Kyotoレポート③ – 口頭発表

第14回国際エンリッチメント会議のレポート第3回目です。1回目(一般公開シンポジウム)のレポートはこちら2回目(ゾウシンポジウム)のレポートはこちらから。

第3回目のレポートでは口頭発表について報告していきます。国際エンリッチメント会議では、前回ご紹介したシンポジウムのようなテーマごとのセッションだけでなく、一般口頭発表のセッションもありました。口頭発表は全部で41題の登録があり、そのうち約半数が海外の方による発表でした。(裏を返すと、残りの半数は日本人による英語の発表でした!)扱うトピックは幅広く、環境エンリッチメントについて園全体の取り組みや個別の動物での取り組みの紹介に加え、自然環境での行動生態学的な研究や、ストレス評価についての生理学的な研究、ゲノム研究など。個人的に印象に残った発表をいくつか紹介します。

オーストラリアのZoo VictoriaからいらっしゃったErin Louise Gardinerさんによる「Asian elephant enrichment – past, present and future」という発表では、アジアゾウへのエンリッチメントとしてトロンボーンの生演奏やボイスパーカッション(これもゾウの前で実際に演奏して?歌って?いました!)を使った事例を紹介していました。(一群での事例なので他にも応用できるかは不明ですが)群れ内の社会的な結びつきが強くなったそうです。環境エンリッチメントのアイデアは無限の可能性をもっていると改めて気づかされる発表でした。

また毎回ICEEに参加していらっしゃる、展示設計の大御所Jon Coeさんの発表「Enrichment through animal rotation, tree-top trails and the 5C’s」では、展示場のローテーションについて、事例を交えつつお話ししていました。動物自身に「選択肢」と「それを自身で選択すること」を提供し、また自然環境では当たり前である気温や湿度、照度などの多様性をもたらすために、展示場をメッシュ状につなぎ、それを複数種で共有しながら利用していく取り組みを紹介していました。また先進的な発展として、RFIDタグ(身近な例だと交通系ICカードやユニクロの無人レジに使われているあれです)を用いて個体ベースで出入りを管理することも可能となっているようです。

日本からの発表では、口頭発表全体のトップバッターとして埼玉県こども動物自然公園の佐々木匠さんが「Spread of environmental enrichment in Saitama Children’s Zoo」という演題で発表しました。園内のスタッフでエンリッチメントに関する勉強会をスタートさせ、来園者とともに環境エンリッチメントを作成する「エンリッチメントデー」の取り組みを始めたこと、エンリッチメント大賞を受賞したペンギンヒルズの施設についてお話ししていました。

安佐動物公園の安西航さんによる「Natural breeding behavior of pinioned common shelduck through the underground nest box」ではツクシガモの巣箱を変更し、半地下に置いたり周囲からの目隠しをしたりすることで、巣箱の利用と抱卵が促され、雛の孵化につながっていました。

他にもまだまだたくさんの発表があり、どれも本当に面白かったです。ここで紹介しきれないのが残念です。。。いろいろなトピックが扱われていたので全体を一言でまとめるのはなかなか難しいのですが、自由な発想と科学的な裏付けが組み合わさることで、環境エンリッチメントは大きく発展していけることを思い知らされたというのが私個人のシンプルな感想です。(私自身の発表については研究室のブログにレポートを載せましたので、興味をお持ちの方はご覧ください。)

次回のレポートではRapid communicationとポスター発表についてご報告します。

小倉匡俊(北里大学 / SHAPE-Japan)

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