【開催レポート】第5回環境エンリッチメント実践ワークショップ

こんにちは!SHAPE-Japanです。
早いもので開催から1カ月が経ちましたが、昨年12月に日立市かみね動物園さんとの共催でおこなった、環境エンリッチメントワークショップについて報告いたします。

◆ワークショップの概要
・主催  SHAPE-Japan、日立市かみね動物園
・後援  日本動物園水族館協会
・開催日 2024年12月11日(水)・12日(木)
・会場  日立市かみね動物園
・対象者 動物飼育に携わる方、研究者
・テーマ 環境エンリッチメントの改良と評価法
・対象種 カバ、ツキノワグマ、アライグマ、シシオザル、オマキザル

北は北海道、南は九州まで、全国から27名の参加者にお集まりいただき、そのうち動物園・水族館関係者は24名、ペット業界関係者が2名、研究者が1名でした。ご参加いただいた皆様、本当に有難うございました!
一日目の最初に、環境エンリッチメントに関する基本的な知識を皆で共有するために、「SPIDER モデルに基づく持続的なエンリッチメントの取り組み方」と「行動観察手法と記録方法」の2つのレクチャーを行いました。特に今回は「エンリッチメントの改良と評価」というテーマでしたので、SPIDERモデルのうち「Re-adjusting(再調整)」の部分にクローズアップした内容でお話させていただきました。

(園長さんよりご挨拶)

(レクチャー中の様子)

エンリッチメントの「再調整」とは、既存のエンリッチメントにおける改善点を抽出して改良方法を練る段階を指します。かみね動物園さんでは、以前からエンリッチメントへの関心が高く各担当で取り組まれているのですが、エンリッチメントがマンネリ化している状況に課題を感じて新しいアイデアを求めていました。そこでワークショップでは、事前に各担当者さんから改善したい内容を参加者に共有してもらったうえで、手始めに現状での動物の行動観察を行いました。

午後は、エンリッチメントの改良方法についてグループでアイデアを出し合うところから始めました。エンリッチメントを改良または新作する際は、計画書の作成を推奨しています。どの材料を使ってどのように組立て・設置するのかを明文化することで、考えが整理されますし他の人との共有も容易となります。計画書に基づき、夕方まで目いっぱい新しいエンリッチメントの作成に取り組みました。

(計画書の作成、そしてエンリッチメントデバイスの作成)

その夜は懇親会を開催したのですが、生江園長をはじめスタッフのみなさんにもご参加いただき、大変盛況な会となりました。かみね動物園さんにはお酒がお好きな方が多く、お陰様で二次会、三次会と夜更けまで楽しい時間を過ごすことができました!

(かみね動物園のみなさんありがとうございました!)

二日目は眠い目をこすりつつも早めに集合し、各チームが作成したエンリッチメントの紹介タイムを設けました。その後エンリッチメントを各展示場に運びこみ設置した後に、直接観察による30分間の行動観察を行いました。各チームの取り組みについては、ファシリテーターからのレポートを紹介します。

◆各チームの取り組みについて
・アライグマ班レポート(ファシリテーター:石田)
アライグマ班は採食時間が短い、来園者に種の特徴が伝わるフィーダーが少ない、運動量を増やしたいという課題がありました。そこで、”いろいろアスレチックフィーダー”と銘打ってメッシュフェンスに様々なフィーダーをぶら下げたものを作成し、木の上の方をロープで渡して高所に取り付けました。普段アプローチしないような場所、姿勢からアライグマ達に挑戦してもらうことで採食時間の延長、エクササイズ、様々な行動レパートリーの展示などの効果を期待しています。また、フィーダーはカラビナ等で取り付けたので更新もしやすい仕様としました。

・カバ班レポート(ファシリテーター:岡部)
カバ班は、運動量の増加を目的に、「消防ホースフィーダー」の改良と増設、「口で引き抜く行動を発現させるフィーダー」の設置、竹および丸太を利用した筒形のフィーダーの設置を行いました。設置後、筒型フィーダーの利用がすぐ見られ、観察時間外には引き抜き型のフィーダーから乾草を摂餌する様子が見られました。消防ホースフィーダーはその後担当により若干の改良を行いましたが、運動量の増加につながっていると報告いただきました。

・シシオザル班レポート(ファシリテーター:橋本)
シシオザル班では、既存のエンリッチメントが群のうち1個体のみかつ短時間しか利用されていないことと、社会的関係から低順位の個体が落ち着いて休息できる場所が必要という課題がありました。既存のタイヤの改良に加え、新たに4種類のデバイスを作製し、事前の観察で空間利用の頻度が少なかった壁や高所へ設置しました。担当者が日常的に高所へ設置しやすいよう消防ホースの取り付け方を工夫し、さらにその消防ホース自体が休息場所になることも想定しました。事後観察では、改良後のタイヤの利用時間が4倍に増加し、他のデバイスも合わせると全個体に利用されました。高所での採食時に落下した餌をさらに他個体が探す機会も増えました。

・ツキノワグマ班レポート(ファシリテーター:荒井)
ツキノワグマ班では、既存のエンリッチメントの難易度が低く使用時間が短いため、採食時間の延長という当初の目的を達成できていないという課題の解決と、現在あまり発現していない種本来の行動レパートリーを引き出すことを目的に、既存のエンリッチメントの改良とブイや竹を使って新規の採食エンリッチメントデバイスを4種類作製しました。設置後の観察の結果、エンリッチメントデバイスを操作する時間は延長され、これまであまり見られなかった様々な行動が見られるようになりました。

・フサオマキザル班レポート(ファシリテーター:木岡) 
フサオマキザル班は、飼育担当さんからの「知能の高さを見せたい、ブイやプラ容器より難易度の高いフィーダー」という課題をいただきました。グループでディスカッションを重ね、格子の外側に操作するパズルフィーダー、野生と同じ行動を見せたいという想いからヤシの実をそのまま入れるという2つのエンリッメントを導入しました。観察時は難易度が高かったようで、すぐに利用はしませんでしたが、ヤシの実を齧り他個体が集まり群れで採食する様子、パズルフィーダーから少しずつ採食する様子を見たときのメンバーはとても生き生きとした表情でした。まとめの時間に全員が「今すぐ改良して観察し直したい」と話し合っていたのを聞けただけで私の福祉が向上しました。

◆さいごに
本ワークショップは、全国の飼育担当者さんに対して環境エンリッチメントの正しい理解や持続的な取り組みを支援する目的で行っていますが、今回はかみね動物園さんとしてもワークショップがスタッフの皆さんにとって新しい刺激になってほしいという狙いがありました。二日間しっかり時間を取り、かみね動物園さんからアドバイスやフィードバックなど丁寧に対応していただく中で、参加者の皆さんとさまざまな考えや悩みを共有できたのではないかと思います。もちろん私たちSHAPE-Japanも、会場での活発な議論や和気あいあいとした雰囲気にとても鼓舞されました。
また、動物園水族館からだけでなくドッグトレーナーの方などペット業界からのご参加もあり、内容についても好意的なご感想をいただきました。飼育動物に対するエンリッチメントの取組みが、今後業界横断的に広がっていくことを期待したいです。
最後となりますが、日立市かみね動物園の皆さまには心から御礼申し上げます。
それではまたお会いしましょう!

(小山)

先頭に戻る