- 種名:アワシヒツジ(こども)
- 目的:カフェテリア給餌と単一(混合飼料)給餌時での行動の比較
動物園では、多くの種類の動物を飼育しており、種ごとに適切な給餌の方法は異なります。
今回紹介する文献は、中近東で飼育される事が多いアワシヒツジのこども(成長期)において、混合飼料を給餌した場合と、その主要原料となる飼料をそれぞれ分けて給餌するカフェテリア給餌を行なった場合における行動と採食量、増体に関する文献です。
畜産動物や動物園動物の飼育では、市販の固形飼料などを使用する事が多くあります。その市販混合飼料は、いくつかの原料を混ぜ合わせて製造されます。しかし、放牧された場合や野生環境での動物たちは、混ぜ合わせた飼料ではなく、いろいろな種類の草を選択しながら採食していきます。では、混合飼料の主要原料をそれぞれ給餌した場合に、採食量や増体量(体重の増加量)、行動がどのように変化するのでしょうか??
それを知るため、アワシヒツジのこども(成長期)において、混合飼料給餌と原料を別々に給餌するカフェテリア給餌をおこない調査しました。
調査には3ヶ月齢のヒツジ16頭を供試し、ランダムに8頭ずつの2群に分けました。2群間の体重に統計的差異はありませんでした。一方の8頭には混合飼料(オオムギ48%、綿実粕22%、フスマ18%、アルファルファ10%、その他ビタミン・ミネラルなど)を不断給餌(コントロール群)し、もう一方の8頭には混合飼料の主要原料であるオオムギ、綿実粕、フスマ、アルファルファを分けて不断給餌(カフェテリア群)し、選択して採食できるようにしました。また、カフェテリア群ではビタミン・ミネラルを常時摂取できるようにした他、それぞれ原料の給餌位置を固定しました。飲水に関しては、両群ともに常時可能な状態でした。調査は9月から10月にかけて連続42日間実施されました。調査期間中の採食量と飲水量、増体量を計測しました。行動観察に関しては、週に2度、3時間ごとの最初の1時間において5分間間隔で行動を記録しました。
調査の結果、体重や飲水量、増体量に違いはみられませんでした。カフェテリア群における採食量は、コントロール群比べて有意に多かったにもかかわらず、摂取エネルギーではコントロール群より少ない結果となりました。また、カフェテリア群における原料別の採食割合はオオムギが33%、綿実粕が42%、フスマが16%、アルファルファ9%と、オオムギと綿実粕に関して、混合飼料の配合割合と異なりました。行動割合に関して、カフェテリア給餌群ではコントロール群に比べて、採食(19%→22%)、睡眠・伏臥休息(23%→29%)が増加し、佇立(25%→19%)、歩行(2.1%→1.5%)が減少しました。また、反芻の割合に関しては両群間で差はみられませんでした。
結論として、原料を別々に給餌したカフェテリア給餌は、ヒツジの成長能力に影響を与える事なく、採食行動の割合を増加させ、ヒツジが選択して好んで食べる、つまり彼らのニーズにマッチした給餌になった事がわかりました。
現在、日本の動物園ではキリンやゾウ、ライオンなど希少動物だけでなく、畜産動物であるウマやウシ、ヒツジ、ニワトリなどの飼育もしばしば見られます。また、飼育下動物の行動に関する文献は動物園動物よりも畜産動物に関する物のほうがより多く存在します。そうした畜産動物の知見から、動物園で飼育される畜産動物だけでなく、動物園動物に応用できる事があるのかもしれません。
(萩原慎太郎)