ICEE2019Kyotoレポート⑥ – エンリッチメント・ワークショップ

お待たせいたしました!続いて6月25日、第14回国際環境エンリッチメント会議4日目に京都市動物園で開催された環境エンリッチメントワークショップ「Environmental Enrichment Workshop : Practical tips for creative enrichment: we are happy and we wear happi!」の様子をご紹介します!

SHAPE-Japan主催で開催されたワークショップでは、各国から集まった32名の参加者が、トラ、ヤブイヌ、ゴリラ、チンパンジーの4チームにわかれて、それぞれのエンリッチメントを作成しました。ワークショップのスタートは13時。京都大学の発表会場から順次、京都市動物園のレクチャールームへ集まった参加者たち…各チームの机には京都市動物園で実際に使われている福祉評価のスコア表と野生環境での生態についてのファクトシートが用意されています。

まずはSHAPE-Japanの山梨よりあいさつとともにワークショプの流れの説明がありました。「今日はブロークンイングリッシュで!」と声掛けの後、SHAPE of Enrichmentの創立者でもあるValerie Hareさんによる講演「A Practical Approach to Enrichment(エンリッチメントの実践的なやり方)」が始まりました。改めて、エンリッチメント導入においてどういったポイントに配慮することが必要なのか、ということを丁寧に話してくれます。エンリッチメントを軸とした世界中の動物園関係者のネットワークづくりをしてきたValerie Hareさんですが、複数回来日しているものの日本でのワークショップ開催は今回が初めて。終始ほがらかなスマイルだったのが印象的でした。

Valerie Hareさんによる講演

各チームには、それぞれファシリテーターとしてSHAPE本部スタッフのKaren Worley、Margaret Hawkins、Valerie Hare、David Shepherdson、コーディネーターとしてSHAPE-Japanのスタッフ、また通訳スタッフのサポートがつきます。はじめに各グループでお互いに自己紹介をします。そして、京都市動物園の飼育担当者から飼育現場での現状説明がありました。何をつくるかも含めて、お互いに話して決めるのです。また、配られたスコア表は、事前に飼育担当者がそれぞれの動物種の福祉状態を評価し問題点をスコアで示したもので、限られた時間の中で現状の課題がよくわかるようになっています。

現場から戻ってきたら、用意されたエンリッチメント素材をざっと確認します。そして、一人一つ以上、次々になにをつくるのかアイディアが出されました。互いに知らない人同士でしたが、そこは動物飼育の現場で働く人が多いからでしょうか、イラストや身振り手振りが駆使されながらグループディスカッションが次第に熱気を帯びていきます。適宜、ファシリテーターからのコメントが挟まれつつも、とにかくみなさん本職の人が多いためか、作業ペースが早い。

途中で、もう少し足したい素材やあると助かる道具類があると、京都市動物園の設備・施設補修担当の門さんに相談となります。

作成したエンリッチメントツールは、完成したチームから、実際に導入可能かどうか、京都市動物園の岡橋課長補佐と山下係長から最終チェックを受けます。

そして約1時間の作業時間で作成したエンリッチメントは、盛り沢山な内容となりました。

ヤブイヌチーム・・・日替わりエンリッチメントツールとして、ハーブを詰めたボックス、竹筒フィーダー、PVC樹脂の回転フィーダー、ゴムで揺れ動くフィーダーなどなどの日替わりで使える7タイプのツール

チンパンジーチーム・・・ベッドをつくるためのフレームと吊るし型フィーダー(夏には氷をいれることもできます!)

トラチーム・・・大きなハンモックベッドと肉汁アイスフィーダー(時間が経てば肉も飛び出してきます)

ゴリラチーム・・・高所に吊るすベッド(内側にお楽しみでミラー付き)、枝葉を天井近くで食べるためのフィーダー

チームごとに、自分たちのエンリッチメントの狙いや仕組みを説明します。一体他のチームはなにを作ったのか、会場は熱心に耳を傾けていました。

そして、そのプレゼンを受けて、SHAPE本部スタッフと京都市動物園の田中 生き物・学び・研究センター長とが選考をおこなった結果、ゴリラチームが見事1位に!続いて、ヤブイヌチームが2位に選出されました!!Margaret Hawkinsさんより講評とともに、記念品としてそれぞれ扇子とてぬぐいが渡されました。

今回のワークショップでは、残念ながら時間の都合上、現場への導入や評価まではできませんでしたが、いずれのツールも翌日以降続々と現場へ導入されたようです。

限られた時間の中で、集中力と体力、そして思考が求められるワークショップでしたが、会場は終始熱気を帯び、とにかくみなさん楽しそう!というのが印象的でした。また、参加者の中には、技術的なノウハウの共有だけでなく、飼育職員、獣医師、研究者、教育普及など、幅広いいろいろな視点からエンリッチメントの導入について議論するプロセスが特に面白かった、というコメントもありました。

SHAPE of Enrichmentによる実践型ワークショップはこれまでのICEE開催時も含めて各国で開催されてきました。専門家よりアドバイスを受けながら、さまざまなバックグラウンドを持つチームメンバーとともに議論しまとめ、協力してツールを作り上げるという一連のプロセスを体験するワークショップ。技術的なノウハウを得ることができるだけでなく、参加者それぞれが、改めて環境エンリッチメントの持つ可能性や実施する際の課題について、改めて考える機会になりうるのではないかと思います。京都市動物園でのこのワークショップが今後のそれぞれの参加者の現場になにをもたらすのか…今後に期待感が高まる3時間半でした。

山崎 彩夏(井の頭自然文化園/SHAPE-Japan)

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