- 採食エンリッチメント、認知エンリッチメント
- 種名:チンパンジー(Pan troglodytes)
- 場所:熊本市動植物園
- 目的:採食時間を延長する、高いところでの採食を可能にする
熊本市動植物園のチンパンジーを対象にしたエンリッチメントの取り組みを3回に分けて紹介させていただきたいと思います。第1回目の今回は、「高いところで採食する」と題してお送りします!
野生のチンパンジーは、たびたび高い木の上を利用します。Takemoto (2004)は、ギニアのボッソウのチンパンジーは、平均で76%ほどを樹上での活動に費やしていたと報告しています。この値は季節や個体により異なるものの、一般的にはチンパンジーは一日の半分以上の時間を樹上ですごしているようです。
飼育下チンパンジー達も、同様に高いところを利用し、彼らの本来の能力や欲求が充分に発揮できるよう、放飼場にタワーが建設されたり、植樹されたりします。
しかし、チンパンジーと違い、地上性のヒト(飼育担当者)が高い場所で作業をすることは決して簡単ではありません…。
そのため、飼育下ではチンパンジーが高い空間の利用、とりわけ採食する機会は非常に限られがちである場合が多いのが現状です。
しかし、熊本市動植物園では、チンパンジーが高いタワーの上や木上でも採食ができるような工夫がいくつかされています。そんな試みをいくつかご紹介したいと思います!
まずは滑車を使ったバケツフィーダーです。タワーの上に食べ物を隠したバケツを設置し、ヒトが毎回登らずに済むよう滑車をつけて、担当者は地上でフィーダーの管理ができるようにしてあります。
ヒモは下で結び付けることで、チンパンジーが取れないようにしてあります。
カラスの巣が近いのですが、バケツの中身がカラスにとられるのは見たことがありません。
こうしたバケツフィーダーに行きつくまでには、その前にいくつかの段階がありました。
もともとは、下の写真のように、飼育担当者がタワーに登り、高所に設置された枝に果物をつけていました。
しかし、枝の調達、天候(霜、雨など)、人員の都合で毎日の設置が難しいという問題がありました。そこで次に、枝に果物をさし、滑車を利用してタワーの上にあげるということをおこないました。
こうすることで、雨の日でも容易に設置できるようになりました。さらに、1本のロープに数カ所こういった枝を設置することもできます。
ただし、この給餌方法は、先に登った特定のチンパンジーが、ほとんど一人で食べてしまうことや、カラスに果物をとられてしまうという問題がありました。魅力的なものがなくなり、残りの野菜だけでは、他の個体はタワー上部までなかなか登りません。また、特に寒すぎたり、暑すぎる季節はなかなかチンパンジー達にとっては積極的に登る気がおきない様子でした。
そこで、これらの対策として、バケツを試したところ、カラス被害もなく、少量の餌でも中身が見えないためとりあえず登ったり、探す行動をほとんどの個体がとるようになりました。
また、滑車には当て板がされていますが、今のところ触る個体、壊す行動はみられません。
ロープを利用することで、吊るせるものならばなんでもつけられるので、その他にもこんなフィーダーを設置することもあります。こちらのフィーダーについては第三回で詳しくお伝えします。
現在、バケツのかわりに、天然素材であり強度も十分な竹などを利用してます。また、滑車はタワーの1角だけですが、今後は数を増やすことを検討しています。
次回はフルーツヌンチャク、次々回は塩ビパイプを使用したフィーダーをご紹介します!
(穴見浩志・山梨裕美)
参考文献
熊本市動植物園のHP:http://www.ezooko.jp/
穴見浩志:熊本市動植物園でチンパンジーなどの動物飼育を担当。個人ブログはこちら➡http://d.hatena.ne.jp/higomaru777/
ボッソウのチンパンジーの地上滞在と、気温や湿度などの環境条件との関連について:H. Takemoto, Seasonal change in terrestriality of chimpanzees in relation to microclimate in the tropical forest. American Journal of Physical Anthropology. 124 (2004) 81-92.