- 種名:リカオン(Lycaon pictus)
- 目的:効果的な環境エンリッチメントについての情報を集める
環境エンリッチメントにはさまざまな種類がありますが、どのエンリッチメントが効果的なのかは対象とする動物種ごとに異なります。そこで今回紹介する研究では、リカオンに効果的なエンリッチメントの実施方法を調べるため、アンケート調査をもとに以下の点について調べました。
- 環境エンリッチメントの実施例
- 環境 エンリッチメントの実施スケジュール
- 環境エンリッチメントが成功したか
- 最適な実施のためのアドバイス
AZAのリカオンSSP参加園を対象にアンケート調査をおこない、23施設(回答率:61%)から返答を得ました。アンケートでは以下の点を尋ねました。
- 社会構成と放飼場の広さ
- 環境エンリッチメントの実施例
- 各エンリッチメントごとの実施頻度
- 各エンリッチメントごとに成功したか否か(活動度や種特異的な行動が増加した場合、もしくは常同行動や攻撃行動が減少した場合を成功とする)
- 最適な環境エンリッチメント
その結果、アンケートで報告されたエンリッチメントの種類は61種類で、採食エンリッチメントが最も多く49%を占めました。回答があったすべての施設で最低でも1ヶ月のうちに複数回のエンリッチメントが実施されており、1週間のうちに複数回のエンリッチメントを実施している施設が最も多いという結果になりました。エンリッチメントが成功した割合は採食エンリッチメントで最も高く、次いで感覚エンリッチメントが高いという結果でした。
また、成功の確率が高かった例として以下のエンリッチメントが個別に挙げられています。
- 物理エンリッチメント:プールを設ける。他種と放飼場をローテーションする。床材を様々な材質に変える。
- 感覚エンリッチメント:ハンティング用に市販されている香りを使ったエンリッチメント。他種の糞。他種に使用後の干し草。
- 採食エンリッチメント:獲物の死体や骨。肉や毛皮をワイヤーに吊して素早く移動させる。餌を撒いたり、埋めたり、丸太に隠したりする。パズルフィーダーやチューブ、バケツなどに餌を隠す。
- エンリッチメントデバイス:ブーマーボール。コング。プラスチック製のおもちゃ。中に餌を隠すと使用時間が延びる。獲物を模したハリボテ。(これらは誤嚥に注意する必要があります。)
- 行動トレーニング:ターゲットトレーニングやハズバンダリートレーニング。
- 社会エンリッチメント:給餌の際に群れを分ける方が群内闘争を減らす場合もあれば、逆に一緒に給餌した方が減る場合もある。コドモや若い個体を群れ内で一緒に飼育する。
最適な環境エンリッチメントとして以下のものが挙げられていました。
- 餌を撒いたり埋めたりする。
- 獲物の死体や毛皮を丸太に隠したりワイヤーで吊したりする。
- 骨を与える。
- 複数の環境エンリッチメントを群れに同時に与える。
- プールを設ける。
- バラバラにできる紙や段ボールを与える。
- 地面を掘れる場所を設ける。
- 刈り取った青草を与える。
以上の結果から、リカオンSSP参加園において多様なエンリッチメントが実施されていることが分かりました。また、ある特定のエンリッチメントがすべての施設、すべての個体に効果的な訳では無く、さまざまな種類のエンリッチメントを組み合わせて実施することがオススメのようです。また、本アンケート調査では環境エンリッチメントの成功を飼育担当者の主観で判断してもらいましたが、エンリッチメントの効果を科学的に確認してその成果を他の園でも役立てるためには、行動観察などデータを記録する必要もあります。多くの施設で、1週間に複数回のエンリッチメントが実施されていますが、その効果を継続させるために、新奇で自然な行動を引き出すエンリッチメントが求められています。
(小倉匡俊)