第一回環境エンリッチメント実践型ワークショップを開催しました!その②

2016年1月30日に京都市動物園との共催で第一回実践型環境エンリッチメントワークショップを開催しました。今回はその後編をご紹介します!前編の講演の様子などその①はこちらから。

11時から開始した環境エンリッチメント実践では,参加者がそれぞれライオン班・トラ班・ジャガー班に分かれ,各班で対象動物たちへのエンリッチメントの考案から製作・実行・観察に至るまでがおこなわれました。

https://www.youtube.com/watch?v=M9uh1Q7D-Gk

エンリッチメントを進めるにあたっては,SPIDERモデルにもとづいた,目標設定・計画立案・実行・記録・再調整というサイクルが推奨されています。今回はその過程をたった数時間で凝縮してやってしまおうという欲張りなスケジュールだったのですが,参加者のみなさんの意欲と京都市動物園の方々のご協力のおかげで,各班では活発な議論が飛び交い、作業も着々と進み、無事に進行することができました。

まずは、各班が対象とする個体や施設に合わせた計画を立てる必要があります。動物たちの担当である京都市動物園の岡部さんが用意した資料を参考にしながら、実際に現場で対象個体をじっくり観察したり,施設の構造を入念に確認しました。それぞれ普段担当している動物種とは違いますが、目の前の個体のためによりよいものを!という熱意に加え,さらには、来園者の方々への教育要素も考慮したい!という姿勢は,さすが動物園人!と印象的でした。

ジャガー班,トラ班,ライオン班,それぞれ現場で対象個体や施設を確認し,
エンリッチメントのアイデアをディスカッション

昼食時も班ミーティングは続きます。お弁当でエネルギーを補給した後,各班はアイデアを具体的な形にするべく,会場に準備された材料を検討しながら作業をすすめます。エンリッチメントの作成時間はおよそ1時間と短かったのですが、熱心な議論が続けられ、みるみるうちに新たなアイテムができ上がっていきました。

ジャガー班は,常同歩行をなくしたい!という目標を第一に掲げ,プラスチックドラム,丸太,ガス管,タイヤなどの材料を用いて,なんと計6個のアイテムを製作していました。

 

ジャガー班のエンリッチメントアイディア
ジャガー班の製作の様子

トラ班では,探索や狩りといったトラ本来の行動を引き出したい!という目標を掲げ,嗅覚刺激や凍結させたドリップ(肉塊を解凍する際に出る肉汁)を用いたエンリッチメント,そして、トラじゃらしを作製しました。

トラ班のエンリッチメントアイディア
トラ班の製作の様子

ライオン班では,対象が老齢個体であったことから、爪のケアを主眼としながらも,来園者の目の前で動く姿を見せるという展示効果も目標に加えました。消防ホースや麻袋を用いて作製したフィーダーをほどよい高さに吊るすことて,しがみついたライオンの後肢に力が入り、それにより爪の利用を促すというアイディアです。

ライオン班のエンリッチメントアイディア
ライオン班の製作の様子

それぞれ完成したアイテムは、動物担当の岡部さん、そして管理職の方々からの安全チェックを受けます。そして、okが出た班から放飼場内に設置しました!現場での設置作業中には,多くの来園者の方々も興味深そうにその様子をのぞきこんでました。ワークショップ参加者にとっては、普段の動物たちが置かれている状況を体感する機会にもなりました。

設置が完了し再度の安全確認が終わると,いよいよ動物たちが居室から出てきます。動物も参加者のみなさんも興奮がもっとも高まる瞬間です!

観察時間は30~40分程度でしたが,参加者の皆さんは動物たちの反応に一喜一憂しながらも、客観的な目線で行動データをしっかりと記録していました。一方で,動物たちの様子を見つめていた来園者の方々からも歓声があがり、現場は熱い熱気に包まれます。そこで、京都市動物園の方々が今回のワークショップの主旨や動物の様子をマイクを手に来園者の方々に解説してくださいました。また、ワークショップ参加者にも急遽マイクが振られていましたが,さすが、各園での解説業務に慣れているみなさん、たちまち来園者をひきつける見事なトークが披露されました。

観察を終えた後は屋内に戻り、各班で結果をまとめます。そして最後に、その内容を全体で共有するために、設置時の写真や動画をスクリーンに映しながら、対象動物・目標・具体的な方法(作製や設置にあたっての留意点)・結果・今後の展望などについて,各班よりプレゼンがなされました。動物たちの新奇物への反応が予想よりも高かったあるいは低かった,興味の持続性や安全面での懸念項目,また目標としていた行動が誘発できたといった報告が続きます。さらには、過去に他園見られた注意事項などともあげられ,個体の特性や飼育環境の状況に配慮した適切なリッチメントの重要性が再確認できました。

そして実践編を終え,ワークショップは終盤戦です。一日の終わりには、2つの講演がおこなわれました。

まずは,『タンザニア・マハレでの野生のヒョウの調査から』と題して,アフリカでのヒョウの生息地の様子について,大谷ミアさん(京都大学野生動物研究センター修士2年)にご講演いただきました。数か月にわたるフィールドワークで野生のヒョウを確認できた回数はなんと0回と,夜行性で警戒心も強い野生のヒョウを調査することの厳しさがうかがえました。そこで、カメラトラップを使った調査をおこなったところ動画や静止画の撮影に成功し,現在はそこから音声データ、さらには食痕や糞を用いた個体識別の手法を検討されているとのことでした。希少種の飼育や繁殖,福祉状態に配慮するにあたって,野生の個体や生息環境を理解することは非常に有意義です。一方で、野生動物の研究者にとっても,実際の動物の形態や行動をみることでフィールド調査の素地をつくるような動物園は非常に大きな研究の場となりえます。動物園と野生動物の研究者が協力関係を持てる新たなネットワークの構築も,今回のワークショップの大きなねらいでした。

 

そして講演のトリはSHAPE-Japan事務局から,山梨裕美さん(京都大学野生動物研究センターSHAPE-Japan)です。『環境エンリッチメントを評価するために』と題し,これまでのおもにチンパンジーを対象とした研究成果から行動や生理学的指標を用いた評価方法の検討,そして現場でも簡易でおこなえる行動観察の提案などをまとめて発表しました。エンリッチメントの客観的評価が重要なことは分かっていても,時間的制約や評価方法の模索に戸惑い、なかなか実現できない葛藤を抱えている飼育者も多いのではないでしょうか。そんな人を勇気づけてくれる発表でもあったと思います。

朝9時から始まったワークショップですが,ほとんど休憩もなく、講演や実践を乗り切りあっという間に終わりを迎えました。最後の〆として、京都市動物園生き物学び研究センターの和田課長補佐に総評していただきました。参加者のみなさんが各自の園館へこの経験を持ち帰りさらに発展させてくれることに期待し,また互いに刺激し合える関係づくりができたことへの喜びのコメントをいただき、ワークショップは終了となりました。

 

ワークショップの〆では京都市動物園の和田課長補佐に総評をしていただきました。

今回このようなワークショップの企画・運営にあたり,多くのみなさまにご協力いただきましたことを,SHAPE-Japan事務局一同,心より御礼申し上げます。特に、共催いただきました京都市動物園の皆々様には事前の準備から当日の運営、エンリッチメントアイテムの準備、その後の動物のケアまで大変お世話になりました。また,ご協力いただきました京都大学学際融合教育研究推進センターの宮野公樹先生,時武秀子様をはじめとするみなさま、ならびに当日足を運んでいただきました白井哲哉様,ご後援いただきました京都大学野生動物研究センター,公益社団法人日本動物園水族館協会のみなさま,京都大学の松沢哲郎先生,友永雅己先生に,この場を借りて厚く御礼申し上げます。

そして、何よりも当日参加いただいたみなさまのモチベーションの高さも,ワークショップを盛り上げた一番の大きな要素でした。運営には至らぬ点も多くみられたと存じますが,このワークショップが次回の開催にもつながるよう尽力いたしますので,今後ともみなさまのご協力いただけますと幸いです。

最後に,当日協力いただいた動物たち(ジャガーの葉月旭,トラのオク,ライオンのナイルとクリス)にも深謝し,本ワークショップの報告としたいと思います。ありがとうございました。

 

(橋本 直子)

 

※今回のワークショップの内容は、2016/3/20に日本モンキーセンターで開催される『ずーだなも。動物園大学6 in 犬山』において発表します。また,京都市動物園の岡部さんも今回の実践のその後の様子をご発表されます。あらためてお知らせいたします。

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