第一回環境エンリッチメント実践型ワークショップを開催しました!その①

2016年02月13日

2016年1月30日、京都市動物園との共催で第一回実践型環境エンリッチメントワークショップを開催しました。前日は雨模様でヒヤヒヤでしたが、何とか曇り空の下無事に開催できました。当日は南は福岡県から北は青森県まで、全国からSHAPEスタッフも含めて54名が集結しました。招待講演者のみなさま、ご参加くださったみなさま、本当にありがとうございました。

実況中継で触れられなかった詳細をブログで報告したいと思います。

当日のスケジュールはこんな感じでした。

 

最初の講演は、八代田真人さん(岐阜大学・准教授)です。主に草食動物の栄養学がご専門の八代田先生ですが、最近アムールトラを対象に絶食日を不定期にしたときの行動学・栄養学的側面への影響について共著論文を動物園水族館雑誌で発表されました。今回のワークショップではネコ科動物の実践をおこなうということで、これまであまり議論されてこなかった栄養学的観点から環境エンリッチメントについて語っていただきました。ネコ科動物の栄養学的基礎に加えて、絶食日を設けることで消化率を低下させる可能性や、絶食日を不定期にすることの行動学・栄養学的影響は種や個体によっても異なること、さらに屠体給与 (Carcass feeding:被食対象となる動物の体の全体もしくは一部を与えること。)が口腔衛生の改善につながる可能性など丁寧に説明してくださいました。屠体給与に関しては、安全におこなうための補足資料までご用意くださいました。現場からの関心の高さに相反して、環境エンリッチメントが栄養学的側面にもたらす影響に関する研究は非常に少ないのが現状です。八代田先生からの新鮮なお話を聞いて、今後より検討されるべきトピックであるように感じ、わくわくしていました。

八代田真人さん(岐阜大学)

 

その後、全国の動物飼育施設から6名の飼育担当者の方がエンリッチメントの事例について紹介してくださいました。

全国の動物飼育施設から集結した、6人の講演者のみなさん。左上から時計回りに萩原慎太郎さん・橋本直子さん・油家謙二さん・伴和幸さん・木岡真一さん・荒井雄大さん

 

まずは、SHAPE-Japan事務局の2名からの海外の事例紹介です。萩原慎太郎さん(福山市立動物園/SHAPE-Japan)は、大型ネコ科動物の給餌内容について海外のガイドラインを元に、必要エネルギーの計算方法やサプリメント、具体的な給餌例などが紹介されました。実際の給餌品目は国や園館によって多岐にわたっていることや、ヨーロッパの動物園の9割で飼育されているヒョウには絶食日が少なくとも1日設けられていることなど、八代田先生からの講演に続き栄養面に関わる興味深い情報提供がされました。次に、橋本直子さん(京都大学霊長類研究所/SHAPE-Japan)は、これまで出版された約40件の学術論文からおもに食肉目を対象としてこれまで世界中の園館でおこなわれてきたエンリッチメントとその効果について紹介しました。内容としては、給餌品目やその呈示方法など採食に関連したエンリッチメントが多く、また給餌のタイミングの予測可能性は正にも負にも影響があるといった話題提供でした。さらに、嗅覚刺激を元にしたエンリッチメントについては、汎用性は高いものの馴化が早いことなどから、実施の際にはエンリッチメントカレンダーの導入や客観的評価をもとに洗練していくことの必要性を指摘しました。

続いて、招待講演者のみなさんからのそれぞれ園館でのエンリッチメント事情の話題提供にうつります。

油家謙二さん(天王寺動物園)には、ムフロンやマングース、クロサイなどを対象に、日常的におこなわれているフィーダーを使ったエンリッチメントを紹介いただきました。エンリッチメントを取り入れたことによって、動物たちが工事など新奇なものに対して動じなくなっていったという副次的効果もあったとのことです。また、「アイデア自体が目新しくなくても動物にとっては関係ない。デメリットがなければどんどん取り入れるべき。」という実感のこもった言葉がとても印象的でした。動物たちがそれぞれの身体能力を発揮しながら、フィーダーから食べ物を取ろうとする姿は、とても魅力的でもありました。天王寺動物園からは油家さん含めて、3名来てくださり、質疑応答には会場のご同僚の方も巻き込んだチームプレイ?も…!

荒井雄大さん(盛岡市動物園)には、北里大学と共同でおこなっているエンリッチメントの取組みを紹介していただきました。学生たちと一緒に考えた、ニホンザルやテン、アオゲラ、ハチクマ、ピューマなど10種類の動物を対象としたエンリッチメントの内容は、消防ホースで作ったハシゴやハンモック、さまざまな素材で作ったフィーダーなどバラエティに富んだものでした。たとえば、鳥類を対象としたエンリッチメントは比較的少なく、今回の講演者の中でも唯一の話題提供でした。穴を開けた木に牛脂をつめて、ハチクマがハチの巣からハチノコを食べるような行動を再現したり、アオゲラが筒の中からラードやミルワームを取り出せるようにしたフィーダーなど面白い工夫をお話しくださいました。

木岡真一さん(恩賜上野動物園)は、「ゴリラをゴリラらしくする」ために、ゴリラにとって当たり前のことができるように、行動・社会・栄養・心理面など複合的な面からゴリラのエンリッチメントを考え、実践した経緯をお話しいただきました。たとえば夜間も群れで生活するという野生では当たり前のあり方を飼育下で導入したこと、夜間でも屋内と屋外を自由に選択できるようにすることにより利用空間を広げる、など、まさに24時間を通した動物福祉への配慮が紹介されました。さらに、飼育下ゴリラは心疾患が多いことで知られていますが、近年では栄養面との関連も示唆されています。動物にとって嗜好性の高い物をただ与えるのではなく、健康に配慮していきいきとした暮らしができるような、給餌方法の重要性も強調されました。そして、エンリッチメントをスケジュール化して変化のある日々を提供するなど、ルーティーンとして継続する現場の体制づくりにも尽力されてきた姿が印象的でした。

伴和幸さん(大牟田市動物園)は、エンリッチメントとハズバンダリートレーニングを組み合わせて、それぞれの動物に合わせて、よりよい暮らしを実現するためにおこなっている具体的な取り組みを紹介してくださいました。たとえば、飼育下大型ネコ科動物は、高齢化により運動量が減少することに伴い、爪が削れなくなってしまうという問題があります。そこで、ハズバンダリートレーニングをおこない、ストレスを極力与えない形で爪の管理を可能にするだけでなく、その問題を根本的に解決するために、丸太の上に置いてある食べ物をとるためにライオンやジャガーに丸太にのぼらせて、自然と爪が削れるような環境作りも提供しているとのことでした。他にも夜間の来園者のいない時間への配慮や、動物の誤飲の弊害もなく、今回の実践にもつかえる便利アイテム(会場にお土産としても持ってきてくださいました!)などお話しされました。なお、伴和幸さんの発表スライドは大牟田市動物園のサイトで見ることができます。

それぞれの方の講演は、15分間という短い時間でしたがとても濃厚な発表内容が続きました。みなさま、どうもありがとうございました。

 

岡部光太さん(京都市動物園)による京都市動物園のネコ科動物の紹介

 

講演タイムの後には、いよいよ実践型ワークショップです!ライオン班・ジャガー班・トラ班の3チームに分かれてエンリッチメントの計画を立てるべくディスカッションを開始しました。まずは、それらの動物を担当する京都市動物園の岡部光太さんより対象種の生態や個体の特性、飼育環境の説明や過去おこなってきたエンリッチメント(またたびや生き魚、落ち葉プールなど)について、説明していただきました。プランニングの時間はいくらあっても足りず、各班は何度も現場と往復し、さらには、お弁当を食べながらもディスカッションは続きます…

 

ご飯を食べながらミーティング中のジャガー班。

 

そして、午後の実践編へと続きます。

実践のため会場に用意された材料と工具などです。SHAPE-Japanと京都市動物園で準備したもののほかに、木岡さん、下村さん、伴さんからもお土産いただきました。感謝…。

 

(山梨裕美)