行動分析学をヒントに効果的なエンリッチメントを考える

 

環境エンリッチメントの準備をして実施し、続けていくことにはコストがかかります。飼育担当者にとって、限られた時間や空間の中で長期的に続けていけるような効果的な環境エンリッチメントを考えることは悩ましい問題です。そこで、行動分析学の分野で研究されてきた動物の行動原理をヒントにすることで、これらの問題を解決できないか、という論文をご紹介します。

環境エンリッチメントの効果に影響する要因は?

1. 内発的または外発的な動物への動機づけ

行動分析学では、動物の行動は、興味や関心といった動物自身の内部から(=内発的)と、環境など動物の外部から(=外発的)動機づけされることにより起こると考えられます。動物自身が行動すること自体により内発的に動機づけされ、また行動により外的な要因が変化することで外発的に動機づけされ、その結果、その動機づけされた行動が再び起こる確率が増加します。

例えば、動物が自ら新しい空間やその新たな匂いを探索したとき、結果として何も見つけられなくても動物の関心をひきおこします(内発的に動機づけされる)。そのため、放飼場の入れ替え、もしくはその中を移動するだけでも、探索や移動といった行動が増加すると考えられます。ただし、このような内発的な動機づけによって起こる行動の変化は、短期間しか持続しない傾向にあります。

一方で、放飼場に隠したり撒かれた食物などは、採食に関連した探索行動や食物を探す行動に外発的な動機づけを動物に与え、その効果をより長続きさせることが可能です。また、食物だけでなく、他種の匂いをしみ込ませた嗅覚刺激や、同種他個体との接触などの感覚刺激も、行動を外発的に動機づけする要因となります。

 

2. 馴化(行動が慣れによって減少する)

内発的な動機づけは、単純な装置や環境変化を繰り返すことで動機づけする効果を失い行動の頻度が減少します。外発的な動機づけを与える場合でも、報酬(餌・社会的接触・ほめ言葉など)の質や一度に与える量、与える間隔によっては、短期間でも行動の頻度が減ることがあります。その場合、動物にとって価値の高いものや異なる種類の報酬をつかう、または間隔を空けて報酬を与えることにより、馴化を抑えることができ、目的の行動を維持できることもあります。

さらには、同じ外的要因にだけでなく、他の似たような外的要因にも馴化したり(一般化)、新しい環境エンリッチメントの導入が、もとの馴化してしまった環境エンリッチメントへの反応をふたたび呼び起こしたり(脱馴化)することも確認されています。

 

3. 消去(行動が消去される)

行動に対し動機づけがされなくなったときに行動が減少することを、消去と言います。望ましい行動や反応が、動機づけが失われた後でも持続するような環境エンリッチメントプログラムが理想的だと言えます。そのため、動機づけとして機能しなくなった装置を放飼場から一時的に取り除くことは、その装置への馴化を防ぐだけでなく、将来の動機づけへの効果も増やす可能性があります。

 

種特有の行動を増やしたり、常同行動などの行動を減少させることを目的として環境エンリッチメントをおこなう場合には、そうした変化を内発的・外発的に動機づけることができるような手法が必要です。また、環境エンリッチメントにより引き出される動物の反応を強くし、馴化のペースを遅くするためには、エンリッチメントの種類を入れ替えたり、外観や特徴を変更するなど、バリエーションを増やす必要があります。それらの関連性を把握するためには、行動分析学で明らかとなった行動の原理に関する知見が大きく役立つかもしれません。

Tarou, L.R. & Bashaw, M.J. (2007). Maximizing the effectiveness of environmental enrichment: Suggestions from the experimental analysis of behavior. Applied Animal Behavior Science, 102, 189-204.

(三家)

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