ICEE2013レポート

動物飼育に携わる人々が世界中から集まり、エンリッチメントに関する情報交換をおこなう、国際環境エンリッチメント会議(通称ICEE)。第11回目は、南アフリカ国立動物公園がホストとなり、2013年10月15~18日に南アフリカ共和国プレトリア近くの国立公園内で開かれました。参加者は60名ほどで、250名以上が参加をする例年のICEEに比べるとこぢんまりとしていましたが、全体としてICEEの和気あいあいとした雰囲気がさらに増していたように思います。

会議では4件の基調講演、33件の口頭発表、13件のポスター発表がおこなわれました。発表者は、飼育員、獣医師、管理職、生態学や行動学の研究者、施設デザイナーなどさまざまな分野の専門家であり、飼育動物のエンリッチメントについて多様な視点から考えることができるのが、この会議の特徴と言えます。
口頭発表では、哺乳類から魚類まで幅広い動物種における取り組みが報告されました。多くは採食行動を引き出す物でした。例えば、ナマケグマ用に作った塩ビパイプのフィーダーや、小型の鳥に餌を吊して与えたり、魚に貝を砂中に埋めて与えるなどの取り組みが紹介されました。他にも、運動場に植生を維持するための工夫や、チンパンジーの健康管理のためのハズバンダリートレーニング、ガチョウやペンギンが来園者通路を散歩して運動不足の解消を図るなど様々な試みが発表されました。ポスター発表では、ゾウやシマウマに対する給餌スケジュールの改良やジャイアントパンダの繁殖への取り組みなどのほか、動物園動物に限らずペットの飼い主に対してエンリッチメントの方法をアドバイスするサービスなども報告されました。

また、今回のホストの南アフリカ動物公園からも積極的に数多くの発表がおこなわれました。例えば、コモドオオトカゲにターゲットトレーニングをおこなう様子や、治療中の動物のストレスを軽減し治癒を早めるために、視覚的バリアなど動物が安心できる場所を作ったり、リハビリ個体の活動性を高めるために感覚刺激を増やすといった動物病院での工夫が紹介されました。さらに、高校や大学と連携しエンリッチメントを取り入れた飼育技術を学ぶ教育プログラムがあり、園全体として様々な場面でエンリッチメントを活用する様子が伺えました。

動物園デザイナーであり、ランドスケープイマージョンの提案者であるJon Coe氏の講演では、 展示動物の状態とそれに対する来園者の意識の食い違いが指摘されました。そして、来園者の関心を引きつけながら保全のメッセージを伝える方法として、動物の動きを引き出せる素材の組み合わせや設置方法、展示場の設計に関するアイデアを、数多くのデザイン画とともに紹介してくれました。日本では、ランドスケープイマージョンは、景観重視の展示方法と捉えられていますが、Coe氏のコンセプトの中心には、常にそこで暮らす動物自身の生活を考え、近年は積極的に環境エンリッチメントを組み込んでいるようです。

会議の合間にはサファリドライブがあり、サバンナの植生や土壌の多様性と動物との関係について学びながら、野生のシマウマやサイ、アフリカゾウなどを間近に観察することができました。その後はワークショップにて、自然環境の機能をいかに飼育環境の中に再現するかについて活発に議論されました。

施設見学で行った南アフリカ動物公園は、85ヘクタールの広い敷地内で3000種以上を飼育する、設立114年の歴史深い動物園でした。全てを回りきることはできなかったのですが、鳥類や霊長類、ネコ科など多くの展示場で給餌エンリッチメントがおこなわれていました。そして「エンリッチメントタイム」を設けるなど、来園者に対するアピールとしてうまく展示に生かされていました。また日本と異なり、展示動物のほとんどがアフリカ産の動物であり、生息地と似た気候や風土の中で飼育できる環境となっていました。日本でも国内原産の動物のみを飼育することは可能でしょうが、やはりさまざまな海外の種を展示することも求められると思います。亜寒帯から亜熱帯まである日本の多様な気候に合わせて展示動物を選択した方がいいのかなど、他国の動物園を訪れることで国内の動物園について考えを深められるきっかけとなりました。

今回、日本からは、SHAPE-Japanの事務局メンバー2名、動物園飼育員1名、大学院生1名の計4名が参加しました。次回は、2015年に中国にて北京師範大学と北京動物園がホストとなり開催されます。SHAPE-Japanではより多くの方々にご参加いただけるよう、サポートをおこなっていきますので、興味を持たれた方はぜひ2年後の参加をご検討ください!

(こやま)

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