【ニュースレター紹介】The Shape of Enrichment News Letter 2013年第22巻4号

本部The Shape of Enrichmentのニュースレター「The Shape of Enrichment」2013年第22巻4号の内容を簡単にご紹介します。

 

丸太をダイナミックに組む!・・・p. 1-3

イギリスにあるポートリムワイルドパークでは、飼育されているステップヤマネコ(Felis silvestris ornata)の常同歩行を治すために、丸太を用いたいくつかのエンリッチメントが施されました。なかでもダイナミックに枝や丸太を組み合わせるおすすめの方法が詳しく紹介されています。

野生環境で見られる丸太や枝は様々な長さや径や形状をしており動きがあるのに対して、多くの飼育施設では丸太などはその場にしっかりと固定されており動きの欠けた物体となってしまっていることに著者は違和感をおぼえました。

まずは、制作時にヤマネコたちに与える悪影響を最小限にするために、放飼場とは別の近くの空き地に放飼場に見立てた同じサイズの区画を設け、その中で丸太を組み合わせる作業をおこないました。丸太の配置がきまったら、それぞれの丸太を連結する部分にアイボルトを取り付け、6mmのワイヤロープでループを作ってDクランプで留めます。そして最後にそのループにカラビナを通しておきます。その後、実際に放飼場に丸太を運び入れるのですが、前もって配置を決めておりそれぞれをカラビナで連結させるだけなので、場内での作業の時間は大幅に短縮できます。ヤマネコがワイヤで吊るされた丸太に乗ると揺れてバランスをとる必要がありこの身体能力は学習によりさらに発達するとても重要なものと考えられます。この取り組みでヤマネコの常同歩行は減少しました。この一連の作業を上の動画で閲覧することができます。

 

オウムにおける羽抜き行動・・・p.3

羽抜き行動(Feather-damaging behavior: 以下、FDB)とは鳥が自らの羽を咬んだり抜いたりする異常行動の一つで、飼育下で一般的に確認されています(vanZeeland et al., 2009)。FDBについては種ごとの感受性が異なると推測されますがはっきりとした原因は分かっていません。そこで、イギリスのオウムサンクチュアリトラストが保有している23種658個体のオウムの情報をもとにデータ分析をおこないました。

その結果、有病率は種間で有意に異なり、Cacatua alba、 Eclectus roratus、 Poicephalus meyeri などの種では40%以上の個体が患っており種の影響を受けていることが示唆されました。一方、年齢・性比・ハズバンダリーに関するいくつかの変数(屋外へのアクセスや単独で過ごす時間など)については種差と無関係でした。ところが、果物や野菜などの生餌を与えられている個体でFDBが少ない傾向があったことから、種特異的な採食生態と飼育下の採食環境との差異が何らかの潜在的なリスク要因となっておりさらなる詳細な分析が必要だと著者は述べています。

 

タスマニアデビルの自然なふるまいを・・・p.4-6

世界最大の肉食の有袋類であるタスマニアデビル(Sarcophilus harrisii)は、1996年に伝染性の疾病が発見されて以来、約95%も個体数が減少しIUCNで絶滅危惧種にリストされています。オーストラリアのZoos Victoriaでは保護プログラムを実施しており、飼育下での疾病フリー個体の繁殖はすでに20世代以上も成功しています。しかし長期の飼育による本来の行動の欠如が懸念されることから、いまだ野生復帰を果たしていません。環境エンリッチメントは、動物の活動性の上昇や常同行動の減少をもたらし、環境利用における探索などの本来の行動を引き出す効果が知られていることから、野生復帰の局面においても重要性が指摘されています。

ここではHealsvilleサンクチュアリで80個体以上のタスマニアデビルに対しておこなわれているさまざまなエンリッチメントが紹介されています。例えば、獲物をバンジーケーブルとペグで固定しておくことで簡単には動かせず、獲物をめぐって争うことが多い野生の採食場面を再現でき顎の筋肉の発達も促します。また、厚板を何枚も利用して砦のような構造を作ることにより偵察行動が促進され、繁殖率が大幅に改善されました。さらに砂を敷き詰めたバットの中にミルワームを隠して探索行動を促したり、野生で同様のハビタットをもつ他種の巣材のワラを導入してなわばり行動を引き出すなど活動性の上昇につながりました。

また、エンリッチメントアイテムに対する反応を赤外線カメラなどを用いて調査した結果、餌と関連しないアイテムについては新奇性の維持のために2週間以上あけてから再導入すべきであること、防御的な行動(マーキングなど)が引き出されたアイテムについては繁殖シーズンなどの感受性の高いタイミングでは導入すべきでないことなどのいくつかの結論が得られました。

 

展示デザインにより来園者の経験も充実・・・p.7-9

動物園での経験は来園者の認識に大きく影響を及ぼします。なかでも展示の見た目と感じや動物の心身の健康状態という2つの直接的な要素に基づいているといえます。このことから、動物園や水族館の展示の設計に携わるPGAV社は、環境エンリッチメントを重視した展示を設計する際、動物にとって選択ができるように可変性を大いに盛り込んだ“生息環境”、ならびに実際にエンリッチメントに携わるスタッフの主体性にもとづいた“キーパー主導”という2つのことにこだわっています。ここでは、PGAV社がアメリカのルイビル動物園で取り組んだグレイシャーランのデザインについて紹介します(2012年AZA展示デザイン賞受賞)。

この展示は2011年4月にオープンしたホッキョクグマとアシカのための施設です。例えばクマが穴に潜り込むと穴の上のトラックでクマに遭遇してしまうといった来園者参加型のさまざまなエンリッチメントの工夫が取り入れられています。このように、非日常的でダイナミックな経験が得られることで教育的効果も高まります。エンリッチメントに用いる装置や構造は、キーパーが主導で設計者と協力して創り上げられたことから、簡単に実行でき長期的に維持できるという利点があります。エンリッチメントによって動きが活発で健康的な動物を見ることで、来園者はさらに動物や保護などへの認識を高めるに違いありません。

 

エンリッチメントとしてのクマのトレーニング・・・p.10-13

アメリカのウッドランドパーク動物園では、動物のハズバンダリーケアに加え動物に対する精神的な刺激の補填としてオペラント条件づけトレーニングの手法を用いています。ナマケグマ(Melarus ursinus)とマレーグマ(Helarctos malayanus)におけるトレーニングの取り組みが、いくつかの場面ごとに細かく紹介されています。

例えば、ある18歳のメスのナマケグマは、気性が荒く他個体との同居が難しく、さらに飼育スタッフにもツバを吐くような個体でした。しかしわずか1年ほどで、体位変換による身体チェックや口内チェックができるようになり、攻撃性も低くなり、オスとの同居が可能になりました。さらに、あるナマケグマの母親と2頭の仔の例では、出産前から母親に別の部屋に移動する訓練をおこなったところ、出産後に仔の健診をおこなう際にスムーズにストレスを最小限に母子分離ができました。妊娠診断のための膣のチェックや腹部の超音波検査にも自発的に取り組む個体もいました。

ただし、クマは食物報酬と手順とを簡単に結びつけることができるため、慣例的なことへの期待から常同行動や決まった行動パターンを引き起こす要因ともなりえます。そのため、トレーニングの時間帯や場所をランダムにして複雑さを付加することも必要かもしれません。

 

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(橋本 直子)

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