ICEE2019Kyotoレポート② – ゾウシンポジウム

第14回国際エンリッチメント会議のレポート第2回目です。 1回目(一般公開シンポジウム)のレポートはこちらから。今回は2日目の午前中に開催された、ゾウの福祉シンポジウムの様子を紹介します。

このシンポジウムには、「異なる文化と職種からの展望」と言う副題がつけられており、インド、アメリカ、日本の異なる場所、異なる価値観からのゾウの福祉についての講演、パネルディスカッションが行われました。まず、司会者である京都大学の幸島教授が講演者の紹介とシンポジウムの流れについて話され、インド科学研究所・アジア自然保護基金のSukumarさん、オレゴン動物園のShepherdsonさん、日本動物園水族館協会(JAZA)の成島さん、また日本での事例紹介として京都市動物園の黒田さん、そして私(福山市立動物園の萩原)の5名の講演が行われました。

Sukumarさんの講演では、これまでのゾウと人の歴史、野生ゾウと人の衝突・軋轢といった、ゾウが生息している場所ならではの内容からはじまり、衝突を回避するために野生ゾウの捕獲・移動が必要である事、昔と今では捕獲方法が異なり、現在では麻酔を使い、より苦痛を与えないように配慮している事が紹介されました。また、飼育ゾウのトレーニング方法の変化、飼育管理の現状、人の生活のためにゾウを使用する事の賛否について話されました。最後に、森林キャンプの飼育ゾウは野生ゾウに比べて、生存率や繁殖率が高く、分娩間隔が野生と類似している事も紹介されました。これらのことは、ゾウの生息域内に生活していない日本人にとって、生息地の現状と課題を共有できる良い機会になったのではないかなと思いました。

Shepherdsonさんの講演では、エンリッチメントの概念と実施方法、ゾウの福祉を科学的に研究し理解する事、飼育員との良好な関係性はストレスの軽減につながる事、オレゴン動物園での福祉を考慮した新ゾウ舎の建築とエンリッチメント事例について紹介されました。研究規模の壮大さ、研究データの豊富さに圧倒され、ここまですることは日本では難しいなと思う反面、一方で日本もこのレベルに追いつかなくてはいけないのだという思いにもなりました。

成島さんの講演では、日本におけるゾウの飼育頭数と単独飼育頭数、個体群管理上の目標、現状課題、今後の実施計画といった総合的な紹介がされた後、単独飼育されているゾウに対するJAZAの方針が述べられました。そして、単独飼育または少数での飼育が行われている動物園が、ゾウの福祉向上のためにどのような取り組みを実施しているのかについて、複数の事例を紹介され、日本のゾウ飼育現場でも、エンリッチメントが広がってきていることを改めて実感しました。

黒田さんの講演では、単独飼育されていたゾウ 美都と新たに導入された4頭との同居訓練について紹介されました。同居開始当初、美都と他4頭は興奮しているような行動や攻撃行動が見られていましたが、同居訓練の頻度を変え、順調に同居訓練は進んだそうです。また、個体別社会行動のデータも調査されており、社会関係の形成には個体差がある事も示されました。以前、日本のある動物園で単独飼育されていたゾウを移動させ、複数頭での飼育に切り替えたところ、移動したゾウの状態が悪化した事例もあるので、単純に複数頭にすれば良いのではなく、個体ごとの状態や導入背景なども考慮しながら慎重に進めなければならないことなのだと感じました。

最後に私からは、福山市立動物園で単独飼育されているボルネオゾウのこれまでの背景、重篤化した結核の治療、廃材を使ったエンリッチメントとその効果、クラウドファンディングを用いた国内初のゾウ用大型フィーダーの開発について述べさせていただきました。講演終了後、海外の飼育員や研究者などから、遊具やフィーダー、クラウドファンディングについて問い合わせがありました。今後、このディスカッションが良い方向に行くことを期待しています。

全ての講演終了後、前述の6名に加え、コーディネーターとして作家の川端裕人さんに加わっていただいき、パネルディスカッションが行われました。まず、川端さんからSukumarさん、Shepherdsonさんへ、各講演内容に対する思いや考えを聞く質問を皮切りに、傍聴者を含めたいくつかの議論がありました。その中でも一番印象的だったのは、Protected Contact = 準間接飼育?について、名称と実情がアメリカと日本で認識のズレがあるのではないか?という川端さんからの質問でした。作家ならではの切り口で、非常に興味深いパネルディスカッションになりました。

さて、次回は口頭発表の様子を紹介いたします。お楽しみに。

萩原慎太郎(福山市立動物園/SHAPE-Japan)

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