子牛を丸ごと!大型肉食獣の行動パターンに与える影響は?

  • 対象種:ヒョウ、トラ、ユキヒョウ、ライオンなど大型肉食獣
  • 場所:Potawatomi動物園、Toledo動物園、Binder Park動物園
  • 手法:採食環境エンリッチメント
  • 目的:丸ごとの給餌方法が行動パターンに与える影響を調べる

 

動物の飼育施設において、彼らの常同行動をできるだけ減らしたい、というのは園館を越えて共通した思いであり、そのための方法のひとつとして、飼育現場では様々な環境エンリッチメントがおこなわれています。

そのような中、トラやライオンといった大型肉食獣の生活において、採食に関連した行動を発現する機会がとりわけ少ないことにあまり注目されていませんでした。野生の大型肉食獣は、狩り行動によって大型の獲物を捕獲し摂食するのに対して、飼育下の給餌は一般的に肉片の状態で与えられます。そのため、例えば、飼育下のトラは野生個体と比べてあごや首を支える筋肉量が大幅に少ないことが指摘されています。また、単調な採食環境や行動の制限によって、往復歩行などの常同行動や過度の毛づくろいといった異常行動など別のかたちの行動に転化して現れるのではないかと考えられています。

そこでMcPheeは、子牛を丸ごと与えるという給餌方法が、大型肉食獣の行動に与える影響について調査をおこないました。

調査対象は、アメリカ国内の3園で飼育されているヒョウ、ライオン、トラ、ユキヒョウなどの大型肉食獣9個体でした。通常の給餌条件と、2週間に一回の頻度で子牛を丸ごと給餌する条件の2条件が設定されました。子牛からは、獣医学的な観点から内臓部分が取り除かれました。子牛は給餌の4日前までは冷凍庫で、給餌日の朝までは冷蔵庫で保管し、常温に戻した状態で与えました。行動観察は、ビデオカメラを用いて、展示中の行動を一日5時間と、バックヤードにおける給餌中の行動を2時間ずつ録画し(実験的な給餌条件では子牛が与えられた日のみ行動観察を実施しました)、5分間隔で行動を記録しました。

その結果、バックヤードでは、過度な毛づくろいや往復歩行といった異常行動に費やす時間が減少し、採食行動が2%から52%へ、採食行動も含め、歩く、休息するといった正常な行動に費やす時間が62%から97%へと大きく増加しました。また、展示中は、観覧通路から見えないような物陰に隠れる行動が増加した一方、常同行動などその他の行動には大きな変化はありませんでした。今回の調査で見られたこのような反応は、シベリアトラ1個体が2回目に導入された子牛に対して極端なストレス反応を示したため調査を中止した以外は、施設、種、性別や年齢、温度に関わらず、共通した傾向だったそうです。

一方で、給餌方法の違いによって、展示中の全体的な行動には大きな変化は見られませんでした。また、展示中に隠れる行動が増加したことについて、McPheeは具体的な因果関係はわからなかったと述べています。展示中の大型肉食獣の行動には、採食条件以外のその他の環境要因、例えば来園者や一日の行動時間帯などが与える影響の方が大きいのかもしれません。

以上より、丸ごとの子牛を与える給餌方法は、バックヤードでの自然な行動発現にポジティブな影響を大きく与え、大型肉食獣の本来の行動生態やその形態において有効な環境エンリッチメントであることが確認されました。一方で、この調査中、丸ごと子牛を与えるという給餌方法が行動へ与える影響は、何日もは継続しなかったそうです。そのためMcPheeは、この給餌方法を環境エンリッチメントとして実施する場合は、予算や健康管理、給餌メニューといった栄養学的側面などの諸条件に問題がない範囲で適宜頻繁におこなうべきだろうと述べています。

McPhee M E (2002) Intact carcasses as enrichment for large felids: Effects on on‐and off‐exhibit behaviors. Zoo Biology, 21(1) ,  37–47

 

(やまざき)

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