飼育担当者との接触がコモンマーモセットに与える影響

  • 対象種:コモンマーモセット(Callithrix jacchus
  • 場所:Istituto Superiore di Sanita(イタリア・ローマにある高等保健研究所)
  • 手法:社会環境エンリッチメント
  • 目的:飼育担当者による親和的接触がマーモセットの行動におよぼす影響を調べる

 

 

ヒトの存在が飼育動物において環境刺激としていかなる影響をおよぼすのかについては、おおいに議論の余地があるでしょう。例えば、乳牛などの農用動物では生理学的評価で負の影響がみられたり、逆に研究施設で飼育される霊長類ではトレーニングによって生活レベルが改善されたという報告もあります(Pomerantz, O., & Terkel, J., 2009など)。トレーニングはあらかじめ設定される一定のスケジュールでのヒトとの接触ですが、それとは異なる、日常的な飼育管理の中で生じるヒトとの親和的な接触もまた環境エンリッチメントとして機能すると考える研究者もいます。しかし、実際のところは、その影響は種によりさまざまなようです。

野生のマーモセットはなわばり意識が高く、ヒトに対して対捕食者の行動様式をみせます。そのため、飼育下では、ヒトの存在に対し、マーモセットの注視行動の増加や、過度に興奮することにより攻撃行動を誘発するなど、ウェルフェアの低下を招いてしまう可能性があります。

そこで、今回ご紹介する研究では、研究施設で群れ飼育されているコモンマーモセットにおいて、飼育担当者が親和的な接触(おもにグルーミング、遊び、優しく声をかけるなど)をおこなうことにより、どのように行動が変化するのかについて調査がおこなわれました。

 

調査は、ローマにあるIstituto Superiore di Sanitaという研究施設で飼育されている4群のコモンマーモセット計15個体(各群2~6個体)を対象におこなわれました。①ベースライン条件(飼育担当者は清掃や給餌を通常どおりにおこなう)と、②接触条件(飼育担当者が清掃や給餌後に20分追加で各群と接触する)の二つの条件を一週間ずつ設定しました。また、ヒトの存在自体の影響を排除するため、①と②の間に4週間、飼育者が毎日マーモセットと不定期に接触する時期が設けられました。また、飼育者との交渉による直接的な行動変化ではなく、直接的な接触によりその後に持ち越される効果を調べるため、接触した担当者が退室した30分後に30分間の行動観察がおこなわれました。行動観察は10秒ごとに群れの個体の行動を順次記録しました。

その結果、飼育担当者との接触期間において、いくつかの行動に変化がありました。マーモセットにおいてウェルフェアの充足を示す行動指標とされる個体間のグルーミングや遊び行動が有意に増加しました。特に、遊びは従来若い個体に特異的とされていましたが、この調査では成体2個体において確認されました。一方で、ストレス指標とされるセルフスクラッチ(自分をひっかく)や、なわばり行動の一種であるphee-callという発声は有意に減少しました。

 

この結果は、マーモセットに対して、飼育担当者が親和的な接触をおこなうことが、その後にも望ましい行動変化を及ぼしたことから、飼育担当者による接触が、環境エンリッチメントとして効果的であることを示しています。筆者らは、このタイプのエンリッチメントの鍵となるのは、飼育担当者の動物に対する態度や共感だと述べています。また、飼育頭数あたりの飼育担当の人数を増やすことで日常管理を妨げずにより効果的な接触ができること、さらには、もし現場の人手が足りない場合は、群れの個体数が少ない群に、同種他個体との社会的接触の代替として、優先的にこの担当者による環境エンリッチメントという手法を取り入れてはどうかと提案しています。

 

A. Manciocco et al., (2009).Effects of positive interaction with caretakers on the behaviour of socially housed common marmosets (Callithrix jacchus).  Applied Animal Behaviour Science, Volume 120, Issue 1, Pages 100-107

(はしもと)

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