正の強化トレーニングが動物に与える影響は?

  • チンパンジー
    チンパンジー

    対象種:チンパンジー(Pan troglodytes

  • 場所:動物園、イスラエル
  • 手法:正の強化トレーニング
  • 目的:正の強化トレーニングがチンパンジーの行動に与える影響を評価する

 

近年、動物の飼育管理の場面において、正の強化トレーニングが注目を浴びるようになりました。たとえば、動物が嫌がる注射などをしなければならないとき、そのような作業に慣れるようなトレーニングができると、動物へのストレスが軽減すると考えられます。正の強化トレーニングとは、行動の直後に食べ物などの報酬を提示するなどを通して、特定の行動をおこなう確率をあげていく(強化する)ようなトレーニングを指します。それは、叱る・罰を与えるなどを通して、特定の行動を減少させるようなトレーニングとは異なります。

さて、今回ご紹介する論文は、そんなトレーニングがチンパンジーの行動にどのような影響をもたらすかを研究したものです。イスラエルの動物園で、チンパンジーに特定のものを触らせたり、体の一部を見せたりするようなトレーニングをおこないました。すると、一日たった5-10分でしたが、トレーニングをおこなった日とおこなっていない日とで、トレーニングをおこなっていない時間帯の行動が変化しました。たとえば、飼育下でよく見られる異常行動(糞食や吐き戻しなどの総計)や、ストレス関連行動(ひっかく、あくび、自己グルーミングなどの総計)が減少しました。著者のPomerantz氏らは、トレーニングをおこない、人との接触時間が高まったことで、チンパンジーの福祉によい影響があったのではないかと述べています。つまり今回の場合は、トレーニングというよりも、人とのポジティブな接触ということが重要だったということなのかもしれません。

しかし、こうした効果は環境により異なるかもしれません。たとえば、非常に複雑な環境であったり、すでに人との接触がある程度確保されている環境では、こうしたはっきりとした影響はみられないかもしれません。それでも、トレーニングを通して、動物がスムーズに飼育管理作業に馴れていくことは動物にとって意味をもつものですし、そのほかの側面への影響を調べていくことはたいせつです。今後も、正の強化トレーニングによって、目的とした行動以外の側面に、どのような影響がでるのかということはさまざまな動物種・場面で検討していく必要があるでしょう。

Pomerantz, O., & Terkel, J. (2009). Effects of positive reinforcement training techniques on the psychological welfare of zoo-housed chimpanzees (Pan troglodytes). American Journal of Primatology, 71 (8), 687-695.

 

(やまなし)

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