飽きない環境エンリッチメントとは?ーナマケグマの場合

南アジアの森林に生息し、果物、花、草本、
昆虫など多様な品目を採食

 

  • 対象種:ナマケグマ(Melursus ursinus
  • 場所:クマ保護センター・バネルガッタ国立公園、南インド
  • 手法:採食エンリッチメント
  • 目的:環境エンリッチメントの実施頻度が馴化に与える影響

 

現在、様々な動物園で取り組まれる環境エンリッチメントですが、どのように実施すれば最も効果的になるのかということについて、まだわかっていない部分も多くあります。例えば、環境エンリッチメントを導入するときに、その初期段階では動物の反応がよくても、繰り返すにともない、次第に動物が慣れてその利用頻度が減っていくという現象がしばしばおこります。

このような「慣れ」のことを、動物行動学では馴化(habituation)と呼びます。馴化とは、動物に対して刺激を続けて繰り返し提示するうちに、その刺激の新しさが失われてゆき、動物の反応が鈍くなっていく現象です。そこで今日は、環境エンリッチメントを実施する間隔が、動物の反応にどのような影響を与えるのかについて調べた研究をご紹介します。

調査は、インドのバネルガッタ国立公園のクマ保護施設で飼育されるナマケグマ14個体を対象におこないました。環境エンリッチメントには、丸太(約1m、直径15-20 cm)にドリルで穴をあけ、そこにハチミツ約200 gをいれて木栓をしたフィーダーが使われました。観察は、エンリッチメントをおこなわない条件(5日間)、エンリッチメントを連続して実施する連日条件(5日間)、一日おきにエンリッチメントを実施する隔日条件(5日間)を設定し、これらの条件の間を数日あけて各々の条件を3回繰り返し、行動の観察をおこないました。

 

 

その結果、連日条件では、エンリッチメント導入後1日目から、操作や探索行動といったフィーダーの利用頻度が日数の経過にともなって次第に減少しました。隔日条件では、エンリッチメントを実施した1、3日目に変化はないものの、5日目にフィーダーの利用頻度が減少する傾向を示しました。つまり、いずれのエンリッチメントの実施間隔でも馴化の傾向が確認されましたが、エンリッチメントを実施する間隔を設けた方がより馴化がおこりにくいことがわかりました。他方で、エンリッチメントをおこなわない条件と比べて、いずれのエンリッチメントを実施した条件でも、ペーシングや体を揺らす、手を舐め続けるといった常同行動の減少と、探索行動の増加が同程度見られました。一方で、社会行動など、その他の行動には大きな変化はありませんでした。

この調査では、馴化がどのようにおこるのかを実験的にあきらかにするために、観察期間を通じて同じフィーダーが用いられました。しかし、実際の飼育の場面では、嗜好性の異なる食物や、さまざまなタイプの環境エンリッチメントをランダムに用いるなどの工夫をすることで、さらに馴化がおこりにくくなるのかもしれません。

Habituation to environmental enrichment in captive sloth bears—effect on stereotypies. Issue Zoo Biology Zoo Biology  Volume 29(6), pp. 705–714,

(山崎)

 

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