木くずの利用で掃除のコストも削減 -費用対効果

 

これまで動物福祉の向上のために、日常管理の洗練や飼育環境の改善などさまざまな実践がおこなわれています。しかし、多くの人の努力を伴う環境エンリッチメントを長期的におこなうためにも、そのコストを考えることもまた重要でしょう。

霊長類の飼育環境に木くずを導入するエンリッチメントは、攻撃や異常行動、過剰グルーミングの軽減や探索などの種特有の行動の増加につながるといった効果があることが報告されています。しかし、木くずの導入にともなう清掃にかかる水や消毒剤、人件費といったコストの面に関する記述はこれまでほとんどありませんでした。

今回は、研究施設でグループ飼育されているボンネットマカクの屋内ケージの床に木くずを撒くことで、清掃作業の軽減やインフラの節約に効果があるかどうか検証した論文をご紹介します。

対象となったのは、Wake Forest大学の霊長類センターで飼育されている9群54個体のボンネットマカクです。マカク達は、屋外と屋内がシュートでつながったケージ(2.4×2.4×2.7m)に収容されていました。各ケージの床はエポキシ樹脂でコーティングされ、中に丸太・フィーダー・給水器・多様なおもちゃが吊り下げられている複雑な環境です。このケージの屋内部分(0.4×2.4×2.7m)に、マツ材の木くず(lab grade pine, NEPCO社)を5cmの深さに敷きました(1/3~1/2袋)。木くずは毎日清掃の際に汚れた部分だけを取り除き、その分を補充しました。また、木くずが排水口に流れ込み詰まるのを防ぐため、写真のようなフタを作製し用いました。

排水口のフタ
高密度ポリエチレン(16.5×31.5×0.78cm)でできている。φ0.78cmのバネかけ式のTホック型の取っ手をつけ排水格子に取り付けた。サルが自分で取り外せない構造。

 

2009年の2~11月の期間で、床材なし(毎日水で清掃し週1回消毒を行なう)、週1回木くず交換(毎日部分的に木くずを取り除き週1回すべて交換し消毒を行なう)、隔週で木くず交換(毎日部分的に木くずを取り除き隔週ですべて交換し消毒を行なう)の3つの条件で各2週間コストのデータを収集しました。コスト評価には、材料費(排水口のフタ、清掃用具、保管場所など)、消耗品(木くず、消毒剤、水)そして人件費(1日あたり日常的な管理作業にかかる時間)を項目として、年間推定量を算出しました。

 

その結果、まず、木くずを用いたエンリッチメントを実施した期間を通して、排水詰まりなどの設備面やサルの健康面、スタッフのケガなどのトラブルはありませんでした。木くずの交換頻度については、衛生面でのモニタリングを通じても隔週でも悪影響がないと評価されました。コストのうち最も大きな割合を占めたのは木くずの購入費(2825ドル/年)でした。また、その廃棄処理費(310ドル/年)も増加しました。しかし、水の使用量(56%減:約20万ガロン節水)、消毒剤(50%減)、清掃作業コスト(22%減)を加味した総コスト評価は、初年度で9%削減し、次年度以降も14%削減と推定されました。

最初に述べたように、このような木くずを導入する環境エンリッチメントがサルの行動によい影響をもたらすことはこれまでに多くの報告があります。本研究でも実験期間を通じて、サルの脱毛が減少し被毛状態の改善がみられました。このことから、木くずの導入は、ケージ飼育のマカクの生活を改善する手段として福祉的にもコスト的にも費用対効果が高いことが示されました。

最後に、この論文の中で、エンリッチメントはチームで取り組むことが成功のカギになるということが強調されます。獣医師・エンリッチメントコーディネーター・飼育スタッフ同士が、飼育手法に関するミーティングで関わりを持つことで互いの理解が深まり、目標達成に向けて長期的に取り組むことができるとのことです。

Bennet A. J., C. A. Corcoran, V. A. Hardy, L. R. Miller, and P. J. Pierre. (2010) Multidimentional Cost-Benefit Anlysis to Guide Evidence-Based Environmental Enrichment: Providing Bedding and Foraging Substrate to Pen-Housed Monkeys. Journal of the American Association for Laboratory Animal Science, Vol.49, pp.571-577

 

(はしもと)

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