掃除の前にはノックを?:飼育作業の予測可能性が与える影響

  • 対象種:フサオマキザル (Sapajus apella)
  • 場所:Edinburgh Zoo (エジンバラ、イギリス)
  • 目的: 飼育作業における予測可能性を高めることで動物の不安を減少させる。
調査がおこなわれたEdinburgh動物園の放飼場の様子。オマキザルとリスザルが混合飼育されている。

 

同じ出来事であっても、動物がそれをどう感じるのかによって、動物へ与える影響は異なります。そのような場合に、動物の受け取り方に影響を与える要因のひとつとして、動物自身がその出来事を予測できていたのかという「予測可能性 (Predictability)」があげられます。例えば、これまでの動物心理学の研究では、動物にとって悪い出来事(電気ショックなど)であっても、予測出来ない条件よりも、予測できる方を動物が選ぶようになることがわかっています。そのため、動物にとって、ものごとが予測可能であるかどうかということは重要な意味をもつと考えられています。
今回は、担当者が給餌や掃除などの日常的な飼育管理のために飼育施設内に入る際に、扉をノックしてこれから起こることを前もって知らせることが、オマキザルの行動にどう影響を与えるかを調べた論文を紹介します。
対象はエジンバラ動物園のオマキザル12個体です。観察は、1日を通しておこなわれ、ノックがない条件とノックを導入した条件それぞれの、作業時に扉を開ける前5分間と、開けた後の5分間の行動について比較しました。このふたつの条件の間には2週間、オマキザルがノックと飼育作業との関連性を学習できる期間を設けました。ちなみにノックがない条件とは、時間帯や扉の開閉音などである程度は予測できるものの、必ずしも飼育作業に結びつかない状態だということです。
結果、ノックがない条件では、自分の体をひっかく・警戒行動・体を動かして人に対する注視などのオマキザルの不安を示すような行動が扉を開けた後に増加しました。一方で、ノックがある条件では、ドアを開けた後の不安行動がノックがないときとくらべて減少しました。つまり、ノックをするという簡単な操作ですが、一定の正確なシグナルを与えることでオマキザルの不安が解消され、良い影響があったと考えられました。
今回の記事は、飼育作業に関する予測可能性をあげることで、動物の不安行動が減少するというものでした。現在でも国内の多くの園館で、入舎時に必ず動物に声かけをおこなっている担当者がいますが、そのような声かけは同じような効果をもたらしているのかもしれません。一方で、給餌や環境エンリッチメントのタイミングなどは、ある程度の予測ができないスケジュールの方が、動物の常同行動や攻撃行動などを減らために有効であることもわかっています(→参考記事1:最適な採食エンリッチメントを探るーフェネックの行動と来園者の反応から)。飼育環境は、決まったスケジュールによって作業が行われることが多いため、動物にとって単調になってしまいがちなことも事実です。そのため、動物が驚いたり不安になるようなことに関しては予測可能性をあげることも大切ですが、ポジティブなものであればある程度予測不可能にするなど、バランスよくおこなうことが大切なのかもしれません。

K. Rimpley, H.M. Buchanan-Smith, Reliably signalling a startling husbandry event improves welfare of zoo-housed capuchins (Sapajus apella). Applied Animal Behaviour Science. 147 (2013) 205-213.

(やまなし)

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