The Shape of Enrichment News Letter 2013年第22巻2号

本部The Shape of Enrichmentのニュースレター「The Shape of Enrichment」2013年第22巻2号の内容を簡単にご紹介します。

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南アフリカの動物園におけるゴリラの福祉向上の取り組み・・・・・p.1-3

南アフリカ動物園ではEEP(EAZAによる繁殖プログラム)の協力によりスイスとイスラエルからゴリラのオス2個体ずつ計4個体を導入し飼育を始めました。飼育に際しておこなわれた、日常管理のための正の強化トレーニングや環境エンリッチメントの内容について多くの写真を用いて紹介されています。トレーニングでは、ゴリラが自発的に参加し、基本的なハズバンダリーの動作(身体への接触、口をあける、注射される)ができるようになりました。行動観察の結果、トレーニング開始から3カ月間で、すべての個体の攻撃的行動が減少し、また、遊び行動が増加したり来園者や飼育者との社会的交渉が増加した個体もいました。エンリッチメントでは、ゴリラたちはハンモックや穴あきの丸太、果物が隠された麻袋などを楽しんでいるようです。とりわけオスのみの群においては、ゴリラとの信頼関係を築くためだけではなく、各個体の小さな行動変化や健康状態を見極めるためにも定期的なモニタリングが重要だと著者らは述べています。

エンリッチメントに関する行動データを記録するためのデジタルアプリの紹介・・・・・p.3

事務局メンバーの小倉氏が開発した、行動観察のためのアプリケーション “ISBOApp” が紹介されています。このアプリはiOSとAndroidに対応しており、なんとタダでダウンロードできます!(開発者の名前が「タダとし」だけに!?)

行動観察をする際、あらかじめ行動リストを作っておけば記録はリストから選択するだけで手間がかかりません。GPSデータも自動で記録できます。記録とデジタルフォーマットへの入力が一度に済むのですぐに分析作業ができ大幅な時間短縮となります。このアイテムは、エンリッチメントを評価する際の行動観察を手助けしてくれる相棒になりうる存在でしょう。

 

小さなクマの大きなニーズにこたえる:ツキノワグマのエンリッチメント・・・・・p.4-5

カンボジアにあるFree the Bearsは、現在世界最大のサンクチュアリで、計113頭のマレーグマ(Helarctos malayanus)とクロクマ(Ursus thibethanus)を救護しています。すべてのクマは違法な野生動物取引から保護された個体で、身体的にも心理的にも何らかのトラウマを抱えているため、それぞれの個体の要求に適したさまざまなエンリッチメントの取り組みが紹介されています。7ヘクタールあるサンクチュアリのなかの大きな森林におおわれたエンクロージャーではクマは1個体あたり約600㎡とARAZPA推奨の2倍の広さを誇ります。群れサイズは1個体から16個体までで平均5~6個体です。エンリッチメントの内容は、新奇なボールやコング、竹のおもちゃ、採食場面では魚の活き餌なども取り入れているそうです。

 

エキゾチックアニマルからペットまで・・・・・p.6-8

著者は動物園の飼育プロフェッショナルとして、エキゾチックアニマルとペットの両方について環境エンリッチメントプログラムの管理などをおこなっています。ペットの飼い主は、自分のペットの吠える・咬む・掘る・縄張り主張するといった行動を“治したい”と主張しますが、一方でそれらの行動は動物園の飼育者としてはぜひとも推奨したいはずです。動物園動物では、自然な行動を促したり、退屈な時間を減らして望ましくない行動を減らす、社会的場面を増やす、環境をコントロールできる機会を増やす、認知や感覚を刺激する、身体運動の機会を増やす、選択の余地を増やすことを主な目的としてエンリッチメントをおこないます。エキゾチックアニマルとペットにエンリッチメントを提供するうえでも、刺激を与えるという目的は共通しています。この記事では特にペットへのエンリッチメントの例がたくさん紹介されています。

 

動物になったつもりで考える:霊長類向けの環境エンリッチメント・・・・・p.9-10

上海動物園では、飼育下の野生動物に対するエンリッチメントを専門的に実施するために“エンリッチメントグループ”を1999年に発足させました。今回の記事では、ロープの使い方や結び方のポイントを始めとし霊長類へのエンリッチメントの取り組みが写真を用いて紹介されています。例えば、ロープを用いる場合の適正なサイズは、小型サル類では直径12mm、大型では26mmです。ロープを設置する際は、その動物種の野生の生息環境や身体の構造だけでなく、来園者にとっては見た目も重要です。さらに、飼育者にとっては日常管理に便利であることも不可欠です。また、事故を防ぐためには、ロープを2本平行に設置するべきではありません。他にも、野生の生息地の雰囲気を出すために植生や岩などを設置してランドスケープデザインに配慮しています。また餌についても、食欲と栄養のバランスや粗タンパクの摂取量を考慮し、ゴリラにはバショウの葉、キンシコウにはトウネズミモチの葉を与えています。チンパンジーには最低15種類以上の食物を用意したり、マーモセットにはミルワームを与えたり、様々なパズルフィーダーを用いて探索機会を増やしたり採食時間の延長をはかっています。

 

エンリッチメント/トレーニング ビデオ・ライブラリーについて P.11

The Shape of Enrichmentでは、各園でおこなわれている環境エンリッチメントやトレーニングの実践に関するビデオの貸し出しをおこなっています。

 

(はしもと)

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