単独飼育のウマには鏡や写真が効果的?

  • 社会エンリッチメント、認知エンリッチメント
  • 種名:家畜ウマ(Equus caballus
  • 場所:De Montfort 大学Lincoln大学(イギリス)
  • 目的:鏡やウマの画像が、ウマの常同行動におよぼす影響について明らかにする

 

ウマは、自然環境の中では群をつくり、エサ場を求めて移動しながら暮らしています。しかし、飼育環境では、馬房で一頭ずつ飼育されることが多く、ウマ同士が十分にコミュニケーションを取ることができない場合もあるようです。

ウマにとって仲間との交流に対する欲求が満たされない状態が続くと、心身にさまざまな問題が生じます。その一つとして、前脚を開いて体を左右に揺らす熊癖(ゆうへき)や頭振りといった常同行動があげられます。特に熊癖は、姿勢や蹄の形に異常が出る原因と考えられています。飼育現場では、このような行動を物理的に抑制するために柵や器具が用いられるようですが、常同行動の発現を根本的に改善することはなかなか難しいようです。

そこで今回は、単頭飼いのウマに鏡や画像を提示することが、ウマの社会的要求に応じ、常同行動の抑制につながるかどうかについて調べた研究をご紹介します。

 

常同行動を示すウマ6頭を対象に、馬房内に1×1.5mの鏡を5週間設置し、その間の行動と姿勢について、鏡のない期間と比較しました。すると、鏡を設置した期間では鏡のない場合に比べて、熊癖は約30分の1と大幅に減少しました。常同的な頭振りが発現する頻度も減りました。一方で、餌の摂取やまどろみ、立って休むなどの正常な行動の割合はほとんど変化しませんでした。しかし、鏡に映る像は空間内の明るさや広さなどによって変化するため、ウマが本当に鏡に映る自分の姿を見て仲間が近くにいるかのように感じていたかははっきりわかりませんでした。

そこで、鏡の代わりにウマの頭部の写真を用いても、同じように常同行動を抑制する効果をもたらすのか調査がおこなわれました。6頭のウマに、ウマの頭部の画像、頭部画像を54分割しランダムに組み直した画像、白い画像の3種類のポスター(0.9×0.6m)を2日間ずつ提示したところ、ウマの頭部の画像を提示した時に常同行動の割合が大幅に減少することがわかりました。

しかし、ウマの常同行動が減ったのは、本当に鏡やウマの写真を見て「群れの仲間」と認識したからなのでしょうか。調査からは、もう少し考えるべき点が二つでてきました。一つは写真を提示した際、警戒行動が増加したこと。ウマはまったくなじみのないウマの顔を見て緊張していた可能性も考えられました。もう一つは、頭振りの割合がパドックでの運動前やイベントの前で特に多かったこと。そもそも常同行動を発現するきっかけは社会的刺激の不足以外にもいくつかあり、鏡や画像の提示とは別の要因で常同行動が変動していたのかもしれません。

今回の2つの調査から、熊癖を抑制する対策として、鏡や画像の提示は柵や器具を用いるよりも効果的であることがわかりました。このように、飼育動物の望ましくない行動の対策や試みをしっかり評価してその効果を確かめることは、彼らが何を要求しているかを理解するために必要不可欠なプロセスだと言えます。 今後は、順化の影響や視覚的な情報以外の方法なども含めて、単独飼育のウマの社会的要求に応える方法をさらに検討する必要があるでしょう。

 

L. McAfee et al. 2002. The use of mirrors for the control of stereotypic weaving behaviour in the stabled horse. Applied Animal Behaviour Science, 78:159–173.

D. Mills and M. Riezebos. 2005. The role of the image of a conspecific in the regulation of stereotypic head movements in the horse. Applied Animal Behaviour Science, 91:155–165.

(こやま)

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