The Shape of Enrichment News Letter 2013年第22巻3号

本部The Shape of Enrichmentのニュースレター「The Shape of Enrichment」2013年第22巻3号の内容を簡単にご紹介します。

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ナマケグマの意欲をかき立てるエンリッチメント!…p.1-5

野生動物は餌の探索やねぐら探しなど様々な場面において彼らの身体・認知能力を駆使したチャレンジを常にしています。そのため、飼育下で新たなエンリッチメントを実施しても、動物たちはすぐにこなしてしまうということはよくあることです。

アメリカのセントルイス動物園では、ナマケグマ(16才、メス)を対象に、探索や吸引などの採食行動の増加と常同歩行の減少を期待して、異なる直径・長さのPVCパイプで作った4種類の給餌装置を試みました。まず1週目は装置がない状態、続く4週間では各1週間ずつ4種類の装置(①長さ約50cm×φ5cm、②100×φ5、③50×φ7.5、④100×φ7.5 ※1フィート=約50cm、1インチ=約2.5cmとして表記を変換)を徐々に難易度が増すよう用い、そして最後の一週間は再び装置がない状態へ戻しました。エンリッチメントを実施した各週では、月水金に装置を呈示し、火木土では装置を呈示しませんでした。それぞれの日で15分間×2回の行動観察を行ないました。

その結果、目的としていた吸い込みや嗅ぎまわり、操作といった行動を増加させることができ、常同歩行も減少しました。より直径が小さく長い装置②がもっとも効果的に能力を引き出せました。一方で、直径7.5cmの装置は簡単すぎたようです。エンリッチメントを進めるうえでの第一歩として、その動物の飼育下での過ごし方や野生での生活を理解し、種特異的な行動を引き出すことが重要なようです。

 

膨大で多様なエンリッチメントを管理する際の安全性への配慮…p.6-8

動物園ではエンリッチメントによって動物本来の行動をひきだすことが重要である一方、動物や飼育者の安全性も重要です。飼育管理の協力者が多いことにこしたことはないですが、関係する人の数が増えればエンリッチメントの素材や記録などに関するリスクも多くなります。対象となる種や個体、あるいは使用する素材次第では一歩間違えば動物が犠牲になってしまうこともあります。

そこで、オレゴン動物園では、そのリスクを最小限にするために、エンリッチメントで使用する全ての素材に園内の承認制度を取り入れました。例えば、新しい素材を導入する場合は、その素材により発現することを期待される行動のタイプや、事故リスクを避ける方法などを明記し、栄養士・獣医師・シニアキーパーの承認を得ることで実際の使用が可能となります。

また、サルモネラ菌や他の微生物学的感染を防ぐために、再利用する素材(例えばコング、ブーマーボール、ブラシヘッド)は肉食動物には赤、草食動物には緑、爬虫類には青といった具合に色分けをおこないます。保管する際も、同様に色分けされたバケツに素材ごとに分けているので、間違って使用するリスクを軽減しています。いったん承認されたエンリッチメント素材は、使用上の情報が写真と一緒にファイルに保管されています。このファイルを参照すれば、各々の動物種にどのようなエンリッチメントを用いるかを視覚的に知ることができるため、ボランティアやインターンの人にとっても有用な情報となります。

 

ペンギンに活きた魚を!…p.8

ウッドランドパーク動物園では、18~26羽のフンボルトペンギンに対し、活きた魚を与えてその効果を調べました。週1回展示場にマスを入れ、活き餌給餌の一日を通した行動と、それ以外の日とを比較しました。その結果、活き餌を与える日を他の日と比較して、ペンギンの遊泳時間が給餌前と給餌中では増加し、給餌後では少し減少しました。とはいえ、全体的には活き餌を給餌の日は20%遊泳時間が増加していました。さらに、魚を追いかけるためか放飼場全体を利用する傾向を示しました。これらのことから、フンボルトペンギンへの活き餌給餌は行動を活発にする効果的な方法であるようです。また、飼育下のペンギンにおいて脚への負荷によって引き起こされる趾瘤への対策としても効果を期待されています。

 

テナガザルの活動性を高める…p.9

南アフリカのプレトリア動物園では、飼育するシロテテナガザル(オス)が毎日何時間も決まった場所で常同的に前後に体を揺らしたり、長時間同一の場所に座っていることから、活動性を高めるためのエンリッチメントを試みました。丸太に果物や花や葉を刺しておく穴をあけたり、フィーダーを吊るしたり、異なる高さの休息場所を増やしました。また、来園者からテナガザルが姿を隠すためのプライバシースクリーンを設置しました。その結果、探索や採食に費やす時間が増加し、放飼場の異なる高さでの空間利用がみられ、体を揺らす常同行動が減少しました。

 

匂い刺激はオオカミのマーキング行動を引き出すか?…p.10-13

イギリスにあるウルフ・コンサベーション・トラストにおいて、飼育下のオオカミがある特定の匂いにどの程度の関心を示すか、また特定のにおいによって生得的な行動の発現が促されるかどうかが調べられました。調査では、3~12歳のオオカミ7個体を対象とし、ラベンダー、ペパーミント、ヤギの糞、ライオンの糞の4種類の匂いのついたわらをいれた麻袋をそれぞれ1週間ずつ、5週間導入しました。1日30分の観察をおこなった結果、マーキングやローリング(匂いの上で転がる行動)、袋への反応などの行動が確認されました。いずれの期間も多く時間を休息に費やし、じっとしていることも多かった一方で、各エンリッチメントへの反応性は、最も高かったのがヤギ糞、続いてラベンダーでした。一方でライオン糞へはあまり関心を示しませんでした。これは、ラベンダーの匂いによって休息が増えたというイヌに関する先行研究とは異なる結果でした。しかし、この調査では、オオカミは匂いに対して最初は警戒していたもののその後自ら接近していったことから、匂い刺激はオオカミにとっての嗅覚エンリッチメントとして潜在的に効果があると著者らは述べています。今後はどのような匂いがよりオオカミを引きつけるのか調査が必要です。

記事の募集について…p.14

The Shape of Enrichmentでは、あなたがおこなっているエンリッチメントの素材や方法などの情報を世界中の飼育現場で共有するために、記事を募集しています!鳥類でも哺乳類でも爬虫類や魚、あるいは家畜など種は問いません。記事の形式も問いませんので、気軽に shape@enrichment.orgまでお送りください。

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(はしもと)

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