【ニュースレター紹介】The Shape of Enrichment Newsletter Vol.23 No.4 (2014)

本部The Shape of Enrichmentが発行するニュースレター2014年第23巻第4号の内容を簡単にご紹介します。これまで年4回のペースで発行されてきたニュースレターは,2016年よりオンライン編集のブログ形式へと移行する運びとなりましたので,今回が最終号になります。新たにブログ形式となることで,印刷費や紙資源の削減だけでなく,現場でのエンリッチメントの取り組みをより早くみなさまにお伝えすることができるようになると期待しています。

そんな最終号は,18ページにわたって7つの記事が掲載,盛りだくさんな内容です。

 

p.1  新奇なエンリッチメントに対するミヤマオウム(Nestor Notabilis)の行動

本来新しいもの嫌いであるオウムは,飼育下で新奇な状況や物にさらされることでストレスを受ける可能性があり,それはしばしばペーシングや羽抜きなどの常同行動として現れます。一方で環境エンリッチメントは,例えば採餌タスクや遊び道具,同種他個体など飼育環境に様々な刺激を提供することで,自他への過剰な攻撃的行動や常同行動といった動物にとって異常な行動を修正できることが知られています。ミヤマオウムはニュージーランド山間部に生息し,社会的な遊びが多様であること,天敵がいないことにより新奇性恐怖症を示さないといった珍しい行動生態を持つ鳥です。これまでに認知研究の対象となったことはあるものの,エンリッチメントについて発表された研究はまったくありませんでした。そこで本研究では,ブリストル動物園(イギリス)で飼育されている7個体のミヤマオウムを対象に,午後の給餌に既存のエンリッチメントと新奇なエンリッチメントを与えた際の行動反応を比較することを目的としました。各エンリッチメントの有効性を,それらへの従事時間と休息行動の変化をもとに分析しました。

既存(a〜d)および新奇(e〜g)のエンリッチメント。
a)ボウルの中に餌を入れバークチップで覆う b)餌を入れた紙袋を枝に吊り下げる
c)段ボールのパズルフィーダー d)餌を入れた長靴
e)餌を入れたケースがプラスチックチェーンの先端に吊り下がっておりチェーンを引っ張る必要がある
f)穴が1箇所あいている回転輪 g)傾いた土台を操作して餌を出すパズルフィーダー

エンリッチメントとして7種類のアイテム(Fig.a〜g)があり,そのうち3種類(e, f, g)が新奇物として導入されたものでした。2カ月間のうち,ベースラインでは既存のエンリッチメントを,実験期間には3つの新奇なエンリッチメントを交代制で導入し,それぞれ5分ごとのスキャンサンプリングで合計160時間の観察をおこないました。

その結果,新奇なエンリッチメントの導入によってペーシングが有意に減少しました。一方で休息が有意に増加しました。これについては,エンリッチメントアイテムを操作しようとオウムが前に立ってじっとしている時間が休息としてカウントされたことによると考えられたため,著者らは行動カテゴリも再検討する必要があると述べています。また,新奇なエンリッチメントへの従事時間が減少したことから,オウムたちが早々に慣れて餌を得るまでの時間が短くなった可能性が示唆されました。各々のアイテムは,それぞれ種特異的な認知能力を駆使する必要があり難解そうでしたが,野生での採食行動を模すという点で生物学的意義があったと捉えられました。

 

p.7 キリンのボックスフィーダー:キリンと来園者によるエンリッチメント体験

イギリスにあるBanham動物園では,4頭のキリンへの新たなエンリッチメントを定期的におこなっています。今回のエンリッチメントの取組みでは,キリンに舌を器用に使うといった自然な採食行動を促すだけでなく来園者がキリンの行動を観察しやすくなることも目的としました。著者らが考案したボックスフィーダーは,木製で4段に分けたそれぞれに3インチの丸穴があけられており,キリンが舌を伸ばして中の餌を取出すことができるようになっています。そしてその反対側は透明なアクリルの板をスライド式ではめてあり,飼育者が簡単に切った野菜類をセットできるうえに,来園者はキリンが食べているところをよく観察できる構造です。チェーンとカラビナで高い位置に吊り下げることができるこのフィーダーは,導入当初はスライドをキリンが舌を使ってあけてしまうことがありましたが,木片をストッパーとして取り付けることで解決できました。

 

p.8 デューク大学・レムール・センターにおけるキツネザル類へのエンリッチメント

アメリカのデューク大学・レムール・センター(DLC)は,キツネザルとロリスに特化した世界最大規模の研究施設で,20種の曲鼻猿類が約250頭飼育されています。DLCでは動物福祉レベルの向上を目指して,屋外放飼場と屋内放飼場を組み合わせた飼育施設やトレーニングプログラムなどにより,ユニークなエンリッチメントをおこなっています。それぞれ1~11エーカーの自然林からなる放飼場が9区画あり,4~11月の期間にはそれぞれペアや群れなどのグループで放飼され,自由に過ごすことができます。幼齢の個体はまずこの自然林で樹上を使ってジャンプしたり,50フィートもの高木の先まで登る経験をします。また,屋内放飼場で暮らす個体には,毎日のエンリッチメントプログラムがあります。種特異的な行動を引き出すような構造のパズルフィーダーを与えたり,ミルワームや他の餌品目にも配慮しています。新鮮な枝葉や草を与えたり,三次元的な移動ができるように枝や消防ホースハンモックなどを用いた空間エンリッチメントもおこなっています。また,トレーニングもエンリッチメントプログラムとして重要な要素です。DLCでは非侵襲的な研究がおこなわれています。例えばアイアイの咬力測定のためにピーナツバターを塗った木片を与える,ワオキツネザルやシファカなどでは移動様式の分析とトレーニングの両方の目的でデータ収集をおこなう,さらにタッチスクリーンで認知課題をおこなうなど,福祉と研究のバランスがうまく保たれた活動が推進されています。

 

p.10 インドシナウォータードラゴンに対する行動エンリッチメント

ルーマニアにある バベシュ・ボヤイ大学のビバリウムで飼育されているインドシナウォータードラゴン(Physignathus cocincinus)について,エンリッチメントが行動へ与える影響を評価しました。対象としたのは体長50cmのオス(推定4歳)で,以前メスと同居していましたがストレスのせいかほとんど餌を食べなかったため,幅90×奥行50×高さ50cmのビバリウムへ分離されました。その後,ビバリウム内の枝や休息台などの配置を変更した4条件(fig.1~4)でそれぞれ5日間ずつ飼育し,個体の行動と空間利用を調査しました。

ウォータードラゴンのビバリウム
①幅90奥50高50cm,枝2本,休息用の石台1か所,水
②幅90奥70高90cm,枝3本,石台2か所(高所あり),水
③ ②と同サイズ,枝多本数,石台4か所(高所あり)
④ ③に加え,水深10cmのプール,フィーダー

調査は1日のうち10分間(10秒ごとの瞬間サンプリング)を3回とし,行動観察では,座る,動く,食べる,水の中で座る,水の中で動く,じっと暖まるの6つの行動がエソグラム(行動目録)として用いられました。観察の結果,ビバリウム内の環境条件の変更はドラゴンの行動にそれほど大きな影響はなかったものの,広く複雑な環境になってからはガラス面を引掻いたり噛もうとするといった行動や常同的な動きがなくなる良好な変化がみられました。また,高所に休息用の台を設けるとほぼ100%に近い割合で利用場所が地面から高所に移行し,さらにその後ハイイロゴキブリ(Nauphoeta cinerea)の入ったフィーダーを導入したときに,空間利用が多様化しました。プールの利用については今後より焦点を当てた観察が必要なことも示唆されました。今後は個体の選好性がエンリッチメントの効果にどのくらい強く影響するのか調べたいと著者らは述べています。

 

p.14 パピエマシェクラブによるトラのエンリッチメントの取り組み

Papier-mache(パピエマシェ)とはフランス語で張り子を意味します。ロンドン動物園協会のホイップスネード動物園では,一年を通して来園者への動物ガイドがとても人気です。特に,トラが立木に登って高いところに設置された餌を引きずり下ろす姿の人気が高かったため,われわれはパピエマシェクラブを結成し,さまざまな張り子を用いてトラへのエンリッチメントをおこないました。例えばヒツジの毛を詰め込んだ張り子を2体セットしたところ,1体は真っ先に壊されましたが,もう1体はトラによって木の上へ隠すかのように運ばれ,翌朝まで残っていました。さらにラクダの皮で覆った張り子ではトラはほとんど興味を持ちませんでしたが,ウシの皮に替えたところ,その周りを走りまわったりと活発になりました。今後はチンパンジーやライオンにもこの取り組みを続ける予定です。

 

p.16 “ヘアボール”:単独飼育の霊長類のためのお人形

America’s Teaching Zooでは,ペット取引で救出された個体や社会的な群れ経験がない個体,育児放棄や群れからの脱落などでヒトに育てられた個体など,さまざまな背景を持った霊長類が保護され、単独で飼育されています。なかでもある1個体のメスのマントヒヒ(Papio Hamadryas)において,ペーシングや舌回し,吐き戻しなどのさまざまな常同行動がみられたことから,2014年11月から2015年3月の期間に,80時間の行動観察を通し,その個体の行動レパートリーの評価と今後のエンリッチメント計画のための情報収集をおこないました。その結果,プラスチックやゴムなどのおもちゃに対してグルーミングのような行動がみられましたが,いずれも20分以内しか続きませんでした。そこで,より社会的仲間を模したような物で社会的要求を満たし、より長い時間グルーミング行動が発現できるようになることを目的とし,リャマやヒツジから取れる毛を用いたエンリッチメントアイテムを作成しました。獣医師やエンリッチメントコーディネーターと相談し,それらの毛を用いる際にワラなどの敷材も一緒に丸め,直径5インチ程度で顔と身体も付けて人形風に仕上げました。ヒヒの反応は,最初の15分ほどは無視していたものの,その後3時間ほどをその人形のグルーミングに費やし,それから8日間はずっと人形を運んだり一緒に眠ったりしていました。9日目に一度人形を取り除いてさらに6日後に渡したところ,同様にずっと保持していました。このエンリッチメントは費用対効果の高いアイテムで,単独飼育の個体の疑似的な社会行動を引き出すことが可能であることがわかりました。

 

p.17 オマキザルは疑似の捕食者に対してどのように反応するか?

ブラジルのNGO団体であるAssociacao Mata Ciliar (AMC) では,保護動物の野生復帰をめざしたリハビリテーションセンターで多くの動物を飼育しています。著者らはフサオマキザル(Cebus apella) に対するエンリッチメントの効果を検証するにあたって,恐怖刺激に対する反応を評価しました。フサオマキザルの1家族(雄1雌1コドモたち)を対象に,木製のヘビのおもちゃをヘビ皮で覆ったものを放飼場の外の,サルが届く程度の距離の所に置きました。最初の反応は,雄はそれにゆっくり注意深く近づいたのに対して,雌は近づきませんでした。コドモたちは警戒して注意深くというより,興味深く近づいていました。それから観察者が約1時間経って戻った際には,驚いたことにヘビのおもちゃは完全に壊されていました。これらのことから,初期段階ではオトナ個体は捕食者恐怖の可能性を認識した行動反応を示すが,若い個体ではそれがまだ確立していないのではないか,しかしその後はオトナは本物でないことを認識できたのではないかと結論づけました。ゆえにこのエンリッチメントははじめのうちはサルの生得的な行動反応を引き出すことができるアイテムかもしれません。

 

最初にもお知らせしたように,2016年からニュースレターThe Shape of Enrichment はオンラインのブログ形式へと移行しました。

The Shape of Enrichmentの会員・非会員に関係なくブログを閲覧することは可能ですので、この機会にぜひご覧ください!

 

 

(橋本 直子)

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