ホシムクドリへの映像エンリッチメント

  • 種名:ホシムクドリ Sturnus vulgaris
  • 場所:レンヌ第1大学(フランス)
  • 種類:感覚エンリッチメント
  • 目的:風景の映像を呈示し、異常行動に与える影響を調べる

刺激に乏しい飼育環境では常同行動を含む異常行動がしばしば見られます。そうした環境への対策として人工的な刺激を環境エンリッチメントとして用いることがあり、その代表例の一つが映像です。本記事で紹介する論文では、風景の映像を見せることがホシムクドリの異常行動に与える影響を調べました。


1歳以上のオスのホシムクドリ27羽を、ビデオ呈示群(捕獲個体10羽・人工育雛個体5羽)と非呈示群(捕獲個体8羽・人工育雛個体4羽)に分けました。各個体を防音の個別ケージに入れ、ケージ内に15インチの液晶ディスプレイを設置しました。1日の馴致の後、ビデオ呈示群には風景の映像を1日2回に分けて各1時間ずつ呈示しました。非呈示群では同じ時間に灰色の画面を呈示しました。用いた映像は実験をおこなったレンヌ第1大学のキャンパス内で撮影され、人や動物、自転車や自動車などの乗り物を一切含んでいませんでした。この実験を5日間連続しておこない、合計10回の映像呈示では毎回異なる映像を再生しました。実験中の異常行動として、繰り返し宙返りする行動、繰り返しケージ側面に止まる行動、頭を傾ける行動、画面に飛びかかる行動、繰り返しケージをつつく行動、翼を短く振る行動を記録しました。

その結果、ビデオ呈示群の捕獲個体は実験初日に異常行動を多く示していたものの、最終日には有意に減少しました。一方、非呈示群の捕獲個体ではそのような減少は見られませんでした。また、ビデオ呈示群の人工育雛個体は実験初日に示した異常行動は少なく、最終日には増加するという、捕獲個体とは逆の傾向を示しました。その異常行動の内訳を見ると、逃走のモチベーションと関係するとされる繰り返し宙返りする行動や繰り返しケージ側面に止まる行動が多く観察されました。

以上の結果から、風景のビデオを見せることはもともと異常行動を多く示していた捕獲個体にはエンリッチメントとして有効であると考えられます。しかし、もともと多くは示していない人工育雛個体にとっては逆に、擬似的な「外の世界」を見せることにより逃走のモチベーションを高めてしまい、異常行動の増加につながるのかもしれません。ホシムクドリに風景のビデオを見せることは環境エンリッチメントとしてポジティブな効果をもたらすものの、その実施には元々の異常行動の頻度や生育歴を考慮すべきであり、異常行動の量だけで無く質にも注意すべきであると結論づけられています。

Coulon M, Henry L, Perret A, Cousillas H, Hausberger M, et al. (2014) Assessing Video Presentations as Environmental Enrichment for Laboratory  Birds. PLoS ONE 9(5): e96949. doi:10.1371/journal.pone.0096949

(小倉)

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