ペンギンは海水と真水のどちらが好き?

  • 対象種:マゼランペンギン(Spheniscus magellanicus
  • 場所:サンパウロ水族館(ブラジル)
  • 目的:ペンギンの水中滞在時間をを野生に近づけ、趾りゅう症を予防する

マゼランペンギン

ペンギンの多くの種は海で採食し、残りの時間を陸の上で過ごして繁殖や換羽をおこないます。一方、飼育下では、水中で泳ぐ時間が少ない反面、固くざらざらした床面の上で立って過ごす時間が長いため、趾りゅう症(足裏にできた傷から雑菌が入ることで起きる炎症)にかかることがあります。また、飼育下では、多くの場合、プールには海水ではなく真水を使っています。

そこで、今回紹介する研究では、ペンギンが海水と真水のどちらを好むかを調べ、プールの水質をペンギンが好むものへと変化させることで、ペンギン達が水中で過ごす時間を増やし、行動時間配分を野生に近づけることができるかどうかを検討し、さらに、水中の滞在時間を増加させることで趾りゅう症の予防を試みました。

 

対象となったのは5羽のマゼランペンギンです。ペンギン達は18,000リットルのプールと15平米の陸上エリアがある展示室で飼育されています。プールは常に水流があり、野生個体が生息しているような環境を模したつくりが目指されています。
調査では、まずプールに真水を3ヶ月間入れた後に、プールの水を全て入れ替えて海水を3ヶ月間入れました。水質の影響を正確に比較するため、どちらの期間も換羽期や繁殖期にはあたっていません。そして、それぞれの期間において各個体の利用している場所(水中か陸上か)について記録をおこないました。

 

すると、真水の場合と比べて、海水を使うことでプール内にペンギンが滞在する時間がおよそ25倍と大きく増加しました。海水を使った場合、ペンギン達がプール内に滞在する時間は全観察時間の77.8%を占めました。

 

採食の際に水の中で泳ぐペンギンにとって、水質は重要な意味を持ちます。この研究では、プールに使う水をペンギンの好む海水にすることで、泳いで過ごす時間の長さを野生個体のそれに近づけることに成功しました。ペンギン達がより多くの時間を水の中で過ごすことは、趾りゅう症に対する有効な予防方法として期待できます。また同時に、水の中で発現するような多様な行動が表出する機会を増加させることもできます。この研究では、ペンギンのプールに海水を使うことは、彼らの飼育環境を改善するツールになりうることを示しています。

Reisfeld, L., Moraes, K., Spaulussi, L., Cardoso, R. C., Ippolito, L., Gutierrez, R., Silvatti, B. and Pizzutto, C. S. (2013), Behavioral responses of Magellanic Penguins (Spheniscus magellanicus) (Foster) to saltwater versus freshwater. Zoo Biology: 10.1002/zoo.21087

 

(おぐら)

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