チンパンジー用ジューサーの設置、試行錯誤:壊されたもの壊されなかったもの

  • 採食エンリッチメント・認知エンリッチメント
  • 種名:チンパンジー(Pan troglodytes
  • 場所:京都市動物園
  • 目的:採食時間を延ばす、道具使用行動を促す

 

京都市動物園では、採食時間をのばすためにチンパンジーが道具を使ってジュースを飲めるようにフィーダーを作っています。

ジューサーは多くのチンパンジーが使用可能で、効率よく採食時間を延ばせるので重宝します。しかしチンパンジーは力も強く思いもよらぬ行動に出ることも多いので、日々の管理の手間をできるだけ減らしつつ強度も保つ…というバランスには頭を悩ませます。

京都市動物園のジューサーは以前にもお知らせしましたが、今回は透明の塩ビパイプのものです。京都市動物園の5個体(設置当時:現在4名)でうまくいった例、うまくいかなかった例を紹介します。

■壊されたもの…

最初は熊本サンクチュアリで用いられている型を元に作りました。底には掃除口をとりつけてあるので、くるくる回せば開き、清掃がしやすくなっています。

 

上から棒を入れて飲むだけのシンプルなもの
横の穴から棒を入れる少しだけ難しいもの。ジェームス(21)はしがむときによく目をつむる。

作成はノコギリなどで切って、塩ビ用接着剤で蓋などを接着するだけです。きちんと接着できれば強度は十分です。

掃除口は設置の際に歪むと中身がもれやすくなるので、設置する鉄棒とフィーダーの間にはゴムを挟んであります。

 

格子などで囲まれたケージであれば、外側につけることで、破壊するリスクを下げることができます。しかし、京都市動物園の屋外展示場はチンパンジーの使用する空間に設置しなければなりません。チンパンジーがフィーダーをいじりやすいので、破壊される確率が増加します…。

実際、設置してから3か月後、コイコが掃除口を取ることを覚えてしまいました。

 

 

蓋をはずす方法を見つけたコイコ(推定38歳) 写真提供、田中正之氏

 

■壊されなかったもの…

そこで、次には南京錠を使って設置することにしました。

①少し手間がかかりますが、鉄パイプを溶接したタイプ

 

②塩ビパイプを余分に使いますが、針金で設置したタイプ

二重構造になっていて、50径のパイプで作った外側の筒の下から40径のパイプと蓋で作った透明の筒を中に入れて鍵で留めます。

 

両方南京錠で固定するので、人が取り外すことは簡単です。

さすがのチンパンジーも…

 

初日にチェックするコイコ

結局①も②も取られていません。

 

現在2歳のニイニも1歳7か月ころから使うようになりました。

 

塩ビパイプの費用は径の大きさにもよりますが、4mで数千円です(インターネットなどで購入できます。)。今回のジューサーに使っているのは40径と50径のものです。

透明塩ビパイプは、中身が見えるので、チンパンジーにも人にも中身がわかりやすいです。

見ているお客さんからも、「蜜かな?水かな?ジュースかな?」といったように中身を気にしたり、行動に注目している声が聞こえました。

 

同時にこんなパネルも設置してあります。

行動を通じて、野生のチンパンジーにつながるようにと思いをこめています。

 

京都市動物園の生き物・学び研究センターブログでも時々活動を紹介しています。

 

(山梨 裕美)

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