ロリスたちの社会生活

  • 種名:スローロリス・スレンダーロリス
  • 目的:野生での社会交渉を検討する
マレーシアの野生スローロリス Photo by Hong Wan-Ting

 

夜行性動物は多くのばあい単独生活者というイメージが強いです。しかし、夜行性動物の”単独性”のレベルにもさまざまあり、社会性の強さが種間、ときには種内でも大きく異なるようです。飼育形態をかんがえるうえでまずは、そのような野生での社会性を知ることが第一です。ただし、野生では単独性が強いと思われている動物種を群れで飼育することに成功している例もあります。たとえば、オランウータンは大型類人猿の中ではもっとも単独性が強いといわれていますが、飼育下では群れ飼育される場合もあります(参考:オランウータンの記事)。

それでは、野生のロリスの社会性はどうでしょうか。ロリスは基本的には単独で活動をしており、直接交渉は頻度が低いものの、社会交渉をおこなうネットワークが存在するようです。

たとえば、マレーシアのPerak州でおこなわれた研究によると、スローロリスの一定したホームレンジをもつおとなの場合、同性同士ではホームレンジは重ならないものの、1個体の異性とは重なる場合が多いそうです。また、その個体間では直接的な社会交渉(グルーミングや音声コミュニケーション)なども観察されるようです(Wiens and Zitzmann, 2003)。オスにはケガのあとも多かったようなので、別のホームレンジをもつ個体との間に攻撃交渉がおこなわれるのかもしれません。この研究では、夜の間でだいたい92%は単独(他個体が20m以内に存在しない状態)で活動しているようでした。昼間も79%ほどの日では単独で寝ていましたが、それ以外の日は他個体(おとなまたはわかもの個体)と寝ていました。これらをまとめると、スローロリスは社会交渉頻度は非常にすくないものの、定常的な社会グループ(大人オス・メスと未成熟個体:”spatial group”と著者たちは呼んでいます)があるようです。

スレンダーロリスはスローロリスとくらべて頻繁に社会交渉をおこなっていると報告されています。インドに住む11個体の大人のスレンダーロリスを10か月半にわたって調査したNekaris (2006)によると、スレンダーロリスは夜間の平均で38%もの時間を20 m以内に同種他個体がいる状況で過ごしているようです(ロリス同士が20 m以内ではなんらかのコミュニケーションが可能と考えられていることと、20 m以上になると存在確認が難しくなることから。)。昼間はグループで寝ていることも多く、特に寝場所を共にしている個体同士で親和的な直接交渉をおこなうことが多いようです。個体構成で調べてみると、オスとメスのペアが多いようですが、オス同士やメス同士のペア、さらにはメス1個体に対してオスが3個体一緒にいる場合なども観察されているようです。複数個体のオスが一緒にいる意義はわかっていませんが、警戒のためなど何らかのメリットがあるのかもしれません。また、オスの社交性が高いというのは、同じく夜行性の霊長類であるポットーなどでも報告されています。

夜行性動物の生態はわかっていないことも多いですが、社会にかんする多様性も高くステレオタイプに考えてはいけなさそうです。今回は2種類のロリスについてご紹介しましたが、社会性に関して種内でもフィールドによって異なることもあるかもしれません。飼育下では夜行性動物が同種他個体、時には異種の他個体と一緒に飼育されていることがあります(参考:夜行性動物の混合展示でのエンリッチメントの記事)。夜行性動物の世界についてはまだまだ検討するべきことが多そうです。

(山梨 裕美)

参考文献

Wiens, F. and Zitzmann, A., 2003. Social structure of the solitary slow loris Nycticebus coucang (Lorisidae). J Zool 261, 35-46

Nekaris, K.A., 2006. Social lives of adult Mysore slender lorises (Loris lydekkerianus lydekkerianus). Am J Primatol 68, 1171-1182

 

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