大型類人猿のハズバンダリートレーニング

  • ハズバンダリートレーニング
  • 対象:オランウータン・チンパンジー
  • 場所:名古屋市東山動植物園
  • 目的:飼育担当者と良好な関係を築く。健康管理を容易にする。飼育管理から不要なストレスを減らす。

 

最近、国内の動物園では、動物の健康や安全面に配慮した飼育管理を円滑におこない、その作業の過程で動物に与える不要なストレスを取り除くために有効とされるハズバンダリートレーニングが注目されています。ハズバンダリートレーニングとは、飼育管理に必要な作業を動物の協力の下おこなえるよう、正の強化トレーニングを用いて訓練することです。今回は、名古屋市東山動植物園でおこなわれている、オランウータンとチンパンジーを対象としたハズバンダリートレーニングを取材させていただいたので、動画とともにご紹介します。


東山動植物園では、オランウータンとチンパンジーに飼育担当者がほぼ毎日、個体あたり5分ほどかけてトレーニングを実施しています。トレーニングの内容は、格子の外に手足を出す、口を開く、背中やお尻を見せる、体温計や注射器を押し当てられても静止している、飼育室の中にある物を取って来る、といったことです。これらのトレーニングをおこなうことで、日常的な健康状態の確認が容易になり、また、もし彼らがケガや病気になった際に、動物に自発的に協力してもらうことで、麻酔をかけずに処置をおこなうことができます。

オランウータンでは2007年末に、チンパンジーでは2010年末に、まず名前を呼んで飼育担当者の前に来させるところからトレーニングを始めたそうです。そこから順に、指示に応じて体を動かす、物を押し当てる、と難しい内容にステップアップしていきました。

手順としては、例えば背中を見せる行動を覚えさせる場合は、飼育担当者の方を向いて座っている時に背中を見せる指示を与え、動物の後ろの方に報酬として使う餌を投げます。動物が頭をそちらに動かし、背中が飼育担当者の方を向いた瞬間に合図と報酬を与えます。この手順を繰り返すことで、指示に応じた行動をすることにより報酬がもらえることを学習させていくそうです。また、すでに学習をした他個体の様子を近くで見ることで、自発的に学習することもあるそうです。

合図としては声やクリッカーを用い、報酬にはレーズンやリンゴ、オレンジ、ヨーグルトなどを指示の難易度に応じて与えます。学習の進度は個体差が大きいですが、早い個体では、口を開けるなど簡単な合図は1~2回、体温測定など難しい合図でも3~4回のトレーニングで学習できるそうです。良く慣れた飼育担当者がおこなうと良くできるが、代番者が実施すると指示に対する反応がやや鈍いということもあるそうです。事故を避けるため、動物の体に触る場合は必ず格子の外側に出ている部分に触れるようにしています。また、特にチンパンジー達は複数の個体が同居しているため、同居他個体の様子にも目を配り、飼育担当者二人で手分けして他の個体を引き離しながらトレーニングをおこなっています。

ハズバンダリートレーニングの実施により、飼育担当者と良好な関係を作ることもできます(→参考記事1参考記事2)。東山動植物園でも、トレーニングをおこなう第一の目的は、動物と飼育担当者が良好な関係を築くことにあるそうです。報酬を介して飼育担当者と「楽しく」関わることで、ヒトと接することによるストレスを和らげます。また、ヒトの側も、特に新しい担当者や代番者は動物に早く慣れることができます。もちろん、動物を間近に見ることができるので、健康チェックが容易になるという利点もあります。実際に東山動植物園では、チンパンジーの性皮腫脹やオランウータンのフランジ発達の様子を詳細に観察し記録をおこなっています。今後もトレーニングを続けて、まだ指示の理解が完全でない個体にも学習を完成させ、注射器で採血できるようにするなど、より詳細な飼育管理に生かすことを目指しているそうです。

(おぐら)

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